京都には多くの参拝客が訪れる神社や神宮がある一方、人員や資金の不足などで課題を抱えているところもある。京都女子大の坂下にある新日吉神宮(いまひえじんぐう)は問題を解決しようと、近年、新たな取り組みを始めた。
新日吉神宮は1160(永暦元)年に後白河上皇が創建。五穀豊穣や商売繁盛の御利益がある。能の発祥地として伝えられ、伝統ある由緒正しい神宮だが、関係者の高齢化に伴う人手不足や参拝客の減少が大きな課題になり、対策に乗り出した。
神宮が目をつけたのは京都の学生。京都には大学が多いことから学生に神宮でしかできない体験や思い出を提供する取り組みを約7年前から始めた。2019年度からは境内の能舞台と社務所内の和室を無料で貸し出していて、必要に応じてイベントの広報に協力したり、舞台で使用する小道具の購入費用を支援したりする方針だ。学生は部活動の成果発表会や練習場所として使うことが多く、京女大能楽部宝生会ら8大学が参加する「第1回関西学生能楽の集い」で能舞台を、京女大落語研究会の寄席で和室を使用している。
宮司の小倉邦男さんは「昔は多くの氏子に支えられ、神社や神宮の存在自体が大切だった。今は氏子に頼らず参拝客が来てくれるように在り方を変容させていく時代になっている。学生の活動をきっかけに参拝客が増えたらいいなと思う」と話した。
神宮の問題解消のために
新日吉神宮では、神宮を身近に感じてもらおうと、大学の課外授業に協力したり、行事に参加してもらう場を提供したりしている。5月の神幸祭では、京都美術工芸大(東山区)の学生が平安装束を着て河原町通・七条通の練り歩きに参加しているが、京女大には神宮の運営に協力している学生がいる。
三田美穂さん(大造・4年)は卒業論文で神社の高齢化による人手不足や将来性について研究したことから神宮に関わり始めた。現在、英語対応の神宮のウェブサイトを1人で作成している。三田さんは観光地として神社や神宮を訪れる外国人が増えていることから、観光地としてではなく、地元住民や学生にも長く愛され続ける方法を考えるようになったという。「何か一つでも宗教に関する経験をすることで、宗教の教えや文化、しきたりを理解できるようになると思う。京女生は通学途中に鳥居を目にするものの実際に訪れることは少ない。卒業後もこの神宮に関わり、少しでも学生に知ってもらえるよう支援を続けたい」と話した。【川村嶺実】
【おことわり】この記事では、学生の学年を3月までの旧学年で表記しています。
新日吉神宮(東山区)の外観 2月3日に行われた節分厄除祭りの様子
(撮影=川村嶺実)