コラム・路地裏

 「(時間は)一種の音楽なのよ——いつでもひびいているから、人間がとりたてて聞きもしない音楽」。ドイツの作家ミヒャエル・エンデ(1929〜95年)の児童文学作品「モモ」に登場する少女モモの言葉だ。時間を数値では表せない「質」として捉えている▼中から伸びたつぼみは膨らみ、やがて開花する。その後はしおれ、花びらが散って池の底に沈んでいく。モモは、時間をつかさどる「マイスター・ホラ」に「時間の花」を見せられ、時間とは一人一人に与えられた取り返しのつかない一瞬一瞬なのだと気づいた▼だが時計やカレンダーに囲まれた現代の人々は、時間を「量」と捉える。「時給は900円」「明日は東京へ」といった具合に。友人との会話や趣味に費やす大切な時間も、「無駄遣い」と切り捨てられてしまう。先日、「昼食に行こう」と友人を誘ったが、「スケジュール帳は勉強やアルバイト、サークル活動でびっしり。暇な時間はほとんどない」と断られてしまった▼春のキャンパスは新入生で華やぐ。サークルの勧誘ビラやシラバスを前に夢を膨らませている人も多いだろう。だが時間を「量」と考えてしまえば、その輝きは急速に色あせてしまう。遠回りしてもいい。予定は少なめに。大学生活は、取り返しのつかない音楽だから。
【西崎啓太朗】

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