【9・10月号掲載】コラム・知恵袋
新幹線で東京駅へ。まず有名な丸の内側の赤れんが駅舎を見に行く。首都の玄関口にふさわしい重厚さを備え、改札は絶えず人を吐き出す。名門企業の本社が並び立つ丸の内。改札を出てくる人はみんな自信に満ちているように見える。私は将来この中に交ざれるのだろうか
みんな時間を無駄にしたくないのか、せかせか歩いている。どんくさい私は道に迷ったり、スーツケースを転倒させたり。そのたびに人の流れを止め、舌打ちもされた。やはり私はエリートサラリーマンにはなれないのかと絶望する
次の日、地下鉄銀座線に乗ってみる。だらだらと乗っていたら終点の渋谷駅。地下鉄のくせに地上3階にあるホームを出て通路を歩くと、眼下にスクランブル交差点が見えた。人と街頭ビジョンの多さに驚かされる。しっかり立っていないとどこかに流されてしまいそうだ
とりあえず歩いていると、道に迷ってしまった。誰か助けてくれるわけでもなく、いっそう無力感が募る
渋谷は谷だ。水が上から下に流れるように坂を下ると、スクランブル交差点に戻ってこれた。しばらくそこで立ち止まっていた私。思い返せば昨日から圧倒され、流されてばかり。このまま楽な方に流れるのも人生だ。でも動かないと永遠にここにいる。そんなの何が面白いのだろうか。もっと積極的に、もっと自信を持って動いたらきっと違う世界が開ける。そんなことを思い、人混みをかき分けながら道玄坂を上り始めた。【田林航】