【3・4月号掲載】宇宙誕生の仮説 卒研で覆す 3年かけ結果出る 川畑准教授らの実験グループ
データの解析をする学生ら
理学部の学生らが卒業研究で宇宙誕生の謎に関する有力な仮説を覆す実験結果を報告した。論文は米国物理学会発行の学術誌「フィジカルレビューレターズ」誌に掲載され、研究に携わった学生は2016年度総長賞を受賞した。
実験を行ったのは理学研究科の川畑貴裕准教授(核物理学)らの実験グループ。
宇宙は138億年前に発生したビッグバンによって誕生したといわれる。その時に水素やヘリウム、リチウムなどの軽い元素が生まれたとされる。しかしリチウムに関しては、同種の元素で質量が異なる「同位体」の量の観測値が理論値より約3倍小さい。これは「宇宙リチウム問題」と呼ばれ、ビッグバンを宇宙の始まりとする説に残された大きな問題とされていた。
リチウム7はベリリウム7から変化すると考えられているため、ベリリウム7がリチウム7以外の物質に変化すれば生じるリチウムの量は減少する。これまで「ベリリウム7は中性子と反応しヘリウム4を発生させる反応が起こりやすいため、リチウムの観測値が小さい」とする仮説が有力視されていたが、この反応は計測されていなかったため今回測定を試みた。
ベリリウム7は不安定で自然界にないため実験が難しい。そこで今回は逆の反応に注目。ヘリウム原子にヘリウムの原子核を衝突させ、中性子が出てくる確率を計測した。実験の結果、中性子がベリリウムと衝突してヘリウムが発生する確率は予想より約10倍小さいと判明。リチウム7の量の少なさを説明するには不十分と分かった。こうして有力仮説が否定され、宇宙リチウム問題の謎はさらに深まった。
実験は14年から始まった。1年目は計測したい反応以外の反応が発生し、正確なデータが得られなかった。2年目は前年のような余計な反応を減らすため装置などを改良。計測時、結果が正確に出たグラフを見た当時4年の武田朋也さんは「勝ったな」と思ったという。3年目前期に、発生する中性子を計測できる割合を調べ、全行程が終了した。
川畑准教授は実験について「自分がやって楽しい研究じゃないとつまらない。卒業研究とはいえ、学生にはちゃんとした研究をさせてあげたいから企画した」と語る。武田さんは「中性子がどれだけの割合で検出できるか、シミュレーションに苦労した」と当時を振り返った。 【田林航】
※おことわり 3・4月号では、学生の学年を3月までの学年で表記しています。