2020年東京五輪・パラリンピックの開催まで約1年になった。大学では五輪に向けて、さまざまな取り組みを実施。今回は3大学の取り組みに注目した。 【川村仁乃・前田絵理香】

奈女大 五輪の議論 活性化へ シンポや講座開く

講演をする石坂友司准教授(撮影=川村仁乃)

 「2020年東京五輪・パラリンピックを歓迎しサポートしようという風潮が強い関東の大学と違い、関西の大学では少し距離を置き、五輪を学問的に考えている」と語るのは、奈良女子大の石坂友司准教授(スポーツ社会学)。奈女大は五輪を取り巻く問題を学内外で議論し、情報発信をしてきた。

 奈女大は、近鉄文化サロンと共催する市民向け講座「〈ニッポン〉のオリンピック〜1964/2020年〜」を4回にわたり開講している。第2回の「東京オリンピックは何を生んだのか(1964年)」では、石坂准教授が選手や交通環境などさまざまな観点から当時の状況を紹介した。過去を知ることは、20年大会の見識を深めることにつながる。7月13日の第3回では、アスリートの動きの巧みさを探る。

■復興と五輪

 奈女大は誘致が決定した2013年から毎年、五輪について議論するシンポジウムを開いている。7回目となる今年は、五輪と東日本大震災の復興をテーマに11月30日に開催する。

 政府は東日本大震災からの復興を大会コンセプトの一つに掲げ、五輪の誘致に成功した。開催決定後は国内が活気づいた半面、建設資材・人手が東京に集中し、震災復興の遅れが生じている。加えて五輪閉幕と同時に、人々の復興への関心が急速に薄れることが危惧される。石坂准教授は「五輪開催にはポジティブな面もネガティブな面もある。ネガティブな面を減らせば開催の意味はある」との考えを示す。

■五輪との向き合い方

 石坂准教授によると五輪には理念や精神が重んじられ、開催の意味を強く問われる特殊さがあるという。自国開催にあたり学生には「ただ競技を楽しむに留まらず、開催する理由や五輪の歴史など根本的なことも考えてほしい」と呼び掛けた。

阪大 五輪と向き合う スポーツ医学の視点で

講演する中田研教授(撮影=前田絵理香)

 大阪大は、2020年東京五輪・パラリンピックに向けて、革新的スポーツ医科学研究を進めるスポーツ庁受託事業「スポーツ研究イノベーション拠点形成プロジェクト(SRIP)」を実施している。 SRIPは、多くの大学や競技団体、企業と協働でスポーツ選手の疲労ストレスや栄養エネルギーなどのデータを統合して人工知能(AI)で予測する「サイバーフィジカルシステム」を用いて、アスリートの競技力向上を目指すプロジェクト。

 SRIPで中心となって活動する阪大大学院医学系研究科の中田研教授(スポーツ医学)が、6月19日に「第3回2020東京オリンピック・パラリンピックにむけたスポーツ医学研究」と題した講演会をナレッジキャピタル(大阪市北区)で開いた。阪大大学院医学系研究科と阪大免疫学フロンティア研究センターから研究者を招き、最先端の医学科や免疫学に触れる全4回の講演の一つ。

 講演会で中田教授は、SRIPで取り組んできたスポーツ科学や情報・データ科学の研究活動をもとに取りまとめた「サイバースポーツコンプレックス(CSC)構想」について言及した。 CSC構想は、日本の医学・工学技術を情報伝達技術やビッグデータなどの情報科学技術と結ぶ新たなスポーツ医科学研究で、五輪での日本選手の活躍のみならず、ヘルスケア分野で健康寿命を延ばすことを目指す。中田教授は、五輪だけでなく生涯スポーツの世界大会「ワールドマスターズゲームズ2021関西」などとの連携にも取り組んでいると話した。

大阪成蹊大 五輪に向けて日本文化PR

 大阪成蹊大は、芸術学部の実施する「日本・台湾文化交流プログラム」が「beyond(ビヨンド)2020プログラム」の認証を受けた。2020年東京五輪・パラリンピックに向けて、日本文化を発信するプログラムだ。

 同学部造形芸術学科インテリア・プロダクトデザインコースは昨年から、工芸文化の研究や国際交流の推進をする台湾の研究機関と交流を開始。日本と台湾の文化を理解し、創作活動をするプログラムを実施している。成果を発表する合同展覧会が7月13〜25日にかけて、大阪市北区の貸し画廊「イロリムラ」で開かれる。学生や台湾の職人が制作した日用品や家具が展示予定。展覧会には台湾の職人も訪れるという。