【1月号掲載】博士課程の生活不安定 経済支援、政府目標半分に留まる
自立した研究活動を行い学問の発展を担う、博士課程の学生。しかし実際は学費をはじめとして経済面の負担も大きく、学問への意欲がある学生も進学に二の足を踏む現状が見えてきた。 【垣内勇哉】
■中教審部会で明らかに
文部科学省中央教育審議会の大学院部会で2017年10月末に提出された資料によると、15年度に大学院の博士後期課程で学んだ学生のうち、返済不要な経済的支援を生活費相当額(年間180万円)以上受けている学生は10・4%。12年度の前回調査からほとんど変化がなく、政府が科学技術基本計画に掲げる目標値、2割の半分程度だ。全く支援を受けられていない学生も52・2%と半数以上を占めた。
学生の専攻分野別では、特に理学、工学、農学分野で年間180万円以上受給している学生が多かったが、保健分野では全く受給していない学生が67・9%を占めた。
また、授業料減免の措置を受けた学生の割合は全体として増加傾向にあるが、全ての分野で半数以上の学生が一切授業料減免を受けていなかった。
欧米と比べ学生への援助が少ないとされる日本の博士課程。研究を続けながら学費、生活費を捻出する状況が続く。
■「全てが不安」学生振り返る
関西大大学院文学研究科の博士後期課程に所属する男性。現在は日本学術振興会の特別研究員としての給料や、大学からの給付型奨学金、ティーチングアシスタント(TA)での収入で生計を立てているという。
進学当初は特別研究員への採用が決まっていなかったため金銭面の不安も大きく、学会や研究会への参加費用が心配の種だったという。「学振採用という一つの成果が出たことで、進学して良かったと感じるようになった」。金銭面に加え学力などの面でもある程度不安が軽減されたという。
一方で「この(博士課程への進学という)選択は、他人には勧められないように思える」とこれまでの苦労をうかがわせた。
大学院で研究に励む傍ら、副業で学費などを工面する学生もいる。関西大大学院の文学研究科に所属する女性は、教員免許を生かし高校で非常勤講師として勤務。「(高校の)定期考査の期間には特に時間が取られ、思うように研究が進まないこともある」と話した。
研究者を目指し進学したといい「好きな研究ができ、博士課程に進学して良かった」と振り返る。進路に関してはあまり心配していないと話す一方で、学部生のころから借りているという奨学金の返済については不安をのぞかせた。実際に進学した学生にとってみても、経済的負担は依然心配が残る要素の一つのようだ。
■「博士」の印象 本紙調査
「経済面不安」6割超
UNN関西学生報道連盟は、大学の学部生、修士学生を対象に博士後期課程への印象に関しアンケートを実施。2017年12月28日~18年1月8日の期間に、106人から回答を得た。
「博士課程へ進学する気があるか」の設問には27・4%が進学に興味があると回答。そのうち経済的不安があるとした人は60・7%を占め、修了時の年齢への不安(50・0%)や就職に関する不安(42・9%)などより多くの人が気に掛けていることが分かる(複数回答)。
また進学する気がないと答えた人の中でも、36・2%は「進学してみたいが、学費や生活費など経済的不安がある」と回答(同)。一方「経済的不安がないとしたら博士課程に進学してみたいか」の問いには41・0%が進学への興味を示した。進学を考える中で、経済的問題が大きく影響している状況が分かる。
博士課程への進学に興味があるとした回答の中には「研究を深め、将来的には研究職に就こうと考えている」(京都大・博士前期)などキャリア形成や学問への興味を強く示す回答が多くあったものの「家族や、返済義務のある奨学金に頼ってまで進むべき進路かと言われると、リスクが目について他の道を選びたいと考える」(大阪大・4年)など学習意欲と裏腹に経済的リスクが大きく進学をためらう学生の姿が見えた。
◆日本学術振興会
学術の振興を目的に、研究者養成のための資金支給などを行っている独立行政法人。博士課程の学生などが研究に専念できるよう資金援助を行う「特別研究員制度」などを運営している。
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