【11・12月号掲載】連載 現代学生貢献事情・中
学生が実社会に出て活躍する場面が多様化している。単純なボランティア作業のレベルを超えて、学生としての学びの延長にある社会貢献や、起業という形で社会のニーズに応える取り組みも見られる。三つの例を取材した。
■学生ならでは

ゼミ活動の一環で企業や社会が持つ課題の解決策を、学生が一緒に考える取り組みが各大学で行われている。
近畿大経営学部・山縣正幸教授のゼミでは、阿部涼加さん、大島春香さんら3年生4人が印刷会社「山添」(大阪市)とコラボ。昔ながらの印刷法である活版印刷の良さを若い世代にも伝えようと、おしゃれな折り紙の商品「#デコりがみ」を作った。食器のデコレーションに使うなどして、若い女性で流行の「おしゃピク」(おしゃれなピクニック)のアイテムにできる。
「初めは利益を出さないといけないという意識で案を考えていた」と阿部さん。しかし山添の野村いずみ社長は「プロにはない学生ならではの発想が欲しかった」と何度も案を不採用にしたという。
「インスタ映え」も狙える#デコりがみについて野村社長は「おしゃピクは知らなかったし、紙と印刷を専門にしている私には思い付かなかったものだと思う」と話す。
商品は10月に大阪市内で開かれた活版印刷商品の販売会「活版WEST」でも、学生自ら山添のブースに立った。世代・性別問わず多くの客が足を止めて購入していた。
阿部さんは「かわいいと言ってくれる人もいて(商品を)受け入れてもらえたのかな」と一安心したようだった。
■法学知識生かす
大学での学びを生かして社会に貢献する部活動もある。大阪大の法律相談部がその一つだ。
法律相談部は月2、3回程度、阪大中之島センターで無料法律相談を開いている。借地・借家問題や相続など民事関係の相談を受け付ける。
取材した10月28日の相談は午後1時半にスタート。相談者から話を聞き取ると、部員は他の部員が待機している別の教室に移る。数人のグループに分かれ議論を重ね、解決策を練り上げていく。教室にはスーツケース二つ分にもなる資料も持ち込み、必要なときに参照。受けた3件全ての問題の検討を終えたのは、午後4時40分ごろだった。
部の活動のメインは実際に法律相談を受けること。一方で知識を身に付けるべく部員同士で集まり、民法の勉強会などもする。
入部のきっかけは人それぞれだが、法曹を目指している学生も多い。活動には、社会貢献という意識だけでなく、自分たちの勉強のためという側面もある。法律相談部で部長を務める宮本拓樹さん(阪大・2年)は「(相談の答えを)理解して満足してもらえたらうれしいし、知識が増えるとそれもうれしい」とやりがいについて話した。
■ビジネスで救え

大学の枠を飛び超え起業に乗り出す学生もいる。藤岡敦さん(神戸学院大・4年)は昨年から休学して寺社情報サイトの運営などをする企業「osechi(おせち)」を起こした。
「母子家庭で育ち、母が孤立感を抱えている姿を見てきた」という藤岡さん。心のよりどころとなれる場として注目したのが寺社だった。
寺社は全国に約16万あり(2015年末時点、文化庁「宗教年鑑」)、コンビニエンスストアの約3倍に上る(同、日本フランチャイズチェーン協会資料)。しかし高齢化で檀家(だんか)からの布施などの収入が減り、副業をする住職もいる。
藤岡さんらは寺社をより身近な場にしようと、寺院を使ったヨガ体験など、催しを開いている。寺社の集客安定につながり、住職らが地域との関係づくりに割く時間を増やすことにもなる。
1年生の頃にスキー場ツアーの企画をして以来さまざまな業種に挑戦。訪問販売ビジネスでは全国でもトップ級の売り上げを出したこともあったというが「キャンセル率も高く、社会の課題を解決している実感がなくてつまらなかった」と振り返る。
現在の事業では約70の寺社と連携。足しげく通い掃除を手伝うなど、時間を掛けて信頼関係をつくってきた。今年の冬には関東の寺院から収益が出たことへの謝辞が届き、うれしかったという。「孤独を感じる人を直接助ける段階にはまだ至っていない。やりたいことはたくさんある」と意気込んだ。
◇取材は瀧本善斗、前山幸一が担当しました。
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