京都大原子炉実験所の研究用原子炉(KUR)=大阪府熊取町、出力5㍋㍗=が8月29日に運転を再開した。東京電力福島第1原発の事故後に制定された新規制基準に対応すべく利用を停止していた国内の大学所有の原子炉が、3基全て利用運転を再開したことになる。再び国内で原子炉を利用した本格的な教育・研究が可能になった。    

■研究利用続々

 実験所ウェブサイトによると、KURの運転再開は新基準施行後では、中・高出力の研究用原子炉として国内初。
 KURは多くの分野の研究で用いられてきた。医学研究の面では、新しいがん治療法の一つ、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)の研究をしてきた。BNCTは中性子とホウ素の反応を利用することで、正常な細胞を大きく損傷することなく、がん細胞に限って破壊できると期待されている。手術の必要もなく、患者への負担も軽くできるという。
 KURとその周辺設備では今後、短寿命の放射性同位体の製造や物質の構造解析など年200件以上の共同利用研究を予定している。

■新基準対応で3年停止

 3月、多くのメディアで「近畿大、原子炉再稼働」の文字が飛び交った。近大の原子力研究所が同月17日、原子炉の「使用前検査」と「施設定期検査」に合格し、利用運転再開は「4月中旬以降」と発表したためだ。
 原子炉を保有している近大、京大の両大学は、新基準対応のため約3年の歳月を要した。まず近大の原子炉=大阪府東大阪市、出力1㍗=が4月12日に利用運転を再開。続いて京大原子炉実験所の臨界集合体実験装置(KUCA)=同府熊取町、同100㍗=も6月21日に利用を再開している。
 両大では再稼働までの間、保安規定の改定や火災対策などの工事を実施。原子力規制庁とのヒアリングも重ねた。
 京大・近大の原子炉では共に、学生の原子炉実習を実施。KUCAは原子炉の基礎実験だけでなく、燃料の取り扱いや原子炉の操作などに利用され、近大の原子炉も、炉心を直接自分の目で見て勉強できる機会を提供してきた。
 研究面でも、物理学、化学、医学、バイオなど広い分野にわたって利用されている。運転再開によって、各分野の研究の進展が期待される。
【前山幸一】