大学の研究成果や、収集した資料を公開するための場として設立されている大学博物館。だが、図書館にはレポートや卒業論文の作成のため学生が訪れるのに比べ、同じ大学敷地内にある大学博物館から学生の足は遠い。大学博物館のテーマは各大学によってさまざまで、幅広い活用の方法がある。

京都精華大 マンガに焦点

 「京都国際マンガミュージアム」は、館内以外にもミュージアムの芝生や併設されたカフェでマンガを片手に過ごすことができる、自由な博物館だ。京都市中心部、地下鉄烏丸御池駅の近くにあり、マンガ資料約30万点を所蔵している。

 うち5万冊は、館内のいたるところに設置された書架「マンガの壁」から自由に手に取って読むことができる。2階メインギャラリーには、年代順に並べられた名作漫画がずらり。収集したマンガ資料を閲覧できる図書館的機能と、マンガの原画や資料を展示する博物館的機能を併せ持つ。

 京都市の学校跡地を利用し、京都精華大が企画や展示、資料選定などの運営を担う。

 広報の中村浩子さんは「当館の活用方法は来館者の希望によりさまざま。自分なりの楽しみ方を見つけて、どんどん活用してほしい」と話した。

大阪音楽大 世界の楽器紹介

世界中の楽器が展示されている(提供=大阪音楽大)
世界中の楽器が展示されている(提供=大阪音楽大)

 世界各地の楽器や関連資料およそ35万点を有する「大阪音楽大学音楽博物館」。およそ1千点の楽器が地域ごとに分けられるなど、展示に工夫が凝らされている。他にも、楽器の伝播や歴史的変遷などを知ることができる。

 学芸員の大梶晴彦さんは、「箏(こと)をはじめとする装飾の美しい日本の楽器も数多く展示している。歴史の深さや、楽器の美しさを感じ取ってもらえたら」と話した。

 他にも同館では、館内を一巡するガイドツアーを月2回行ったり、毎年ミュージアム・コンサートを開催したりしている。

 館内で展示されている楽器を使用する講義などが行われることもあり、実践的な学びの場にもなっている。「自習のために訪れる学生も多く、博物館は学生の生活の一部だ」。

立命館大 平和教育を象徴

 大学が設立した世界初の平和博物館として1992年に誕生した「立命館大学国際平和ミュージアム」は、立命館大の教学理念「平和と民主主義」を象徴する存在となっている。

 見学コースは地下1階の「一五年戦争」や「現代の戦争」など史実に関する展示から始まる。2階では、世界が抱える問題や人々の平和に向けた活動が描かれている。また1階の「国際平和メディア資料室」では、さらに深く平和について調べることも可能。大学の研究機関としての機能を生かし、戦争全体を俯瞰的に捉えられるような展示を目指している。

 立命の講義でも活用され、学生の利用者数は年間6千から7千人程度。博物館所蔵の資料は卒業研究などにも活用されている。同ミュージアム担当の田中栄治課長は「特に平和や安全保障について考える際には、他大学の人もどんどん活用してほしい」と語った。

 

学生主導で企画も 実習公開の一環に

小学生と「日時計」を作る京大の博物館実習生ら
小学生と「日時計」を作る京大の博物館実習生ら

 大学博物館を利用した、学術的な取り組みが各大学で行われている。

 学芸員資格取得のための授業「博物館実習」の学生が中心となり企画している「子ども博物館」。京都大学総合博物館で、毎週土曜日に開かれている。大学生が実際に訪れた小学生と接する対面型プログラムが特徴で、学生の研究成果発表の機会にもなっている。

 ことしで11年目となる同企画。アウトリーチ活動(研究成果公開活動)の一環としても行われている。大学博物館の取り組みとしてはまれで、学会で取り上げられたこともある。同館の網島聖特定助教は「理解を深め、楽しんでいただけるコンテンツの提供を心掛けている」と話した。

 本来、同館の展示内容は高校生以上が対象。だが小学生にも興味を持ってもらえるよう、大学生が自らの研究分野をかみ砕いて説明する。「プラ板で生き物のキーホルダーを作ろう」では、小学生と大学生が会話を弾ませ楽しんでいた。

 大阪大の総合学術博物館では現在、「阪大生がつくった展覧会2015ベスト」が開催中だ。昨年から始まった試みで、博物館実習の一環だ。実習で優秀だった班が交代で展示を行う。

 「作品の選定・配置からポスター制作などの広報まで、全て学生主導で行っている」と話すのは博物館資料部の伊藤謙さん。実習B班は、琵琶湖「鳰海(におのうみ)」をテーマに水墨画家・松本奉山の作品を陳列、水墨画8点を厳選した。班員の前田頒子さん(阪大・3年)が琵琶湖のジオラマも制作し、展示を工夫。「行ったことのある人なら、あそこだな、と思える」展示になっているという。

 12月14日からB班の展示が始まり、19日には関連したワークショップとミュージアムトークが行われる予定だ。

 

入館のきっかけへ 新たな取り組み実施

台紙と飛鳥を意識した関大のスタンプ
台紙と飛鳥を意識した関大のスタンプ

 関西圏にある17の大学博物館や美術館などが連携する「かんさい・大学ミュージアムネットワーク」が10月から11月にかけてスタンプラリーを行っている。26日にはバスツアーも行う。

 スタンプラリーはことしで3年目。大学ミュージアムは大学の敷地内にあるが、大学生にとって身近な存在とは言い難い。より大学ミュージアムを知ってもらおうと、関西大学博物館を中心にスタンプラリーが開催された。初めは11カ所だったが、提携先が今では17にまで増えた。同大博物館事務室の石立弥生子事務長は「自由に入れることを知ってもらうきっかけになれば」と話す。

 全17種のスタンプを10種集めると、大学ミュージアムグッズの詰め合わせがもらえる。スタンプや台紙のデザインは大阪芸術大の学生によるもの。学生の視点といった、大学ミュージアムの職員とは異なる方面から映る魅力を取り入れることが目的だ。柄は各大学ミュージアムのイメージで作られているという。

 バスツアーは昨年から実施。40人の定員を超える応募があった。博物館でアルバイトをしている関西大の学生も同行。車内では大学ミュージアムの職員が次に向かう場所の説明やクイズを行うなど、参加者が観覧をより楽しめるよう心掛けているという。

 だが取り組みは一部の大学博物館で始まったばかり。生涯学習に詳しい関大の赤尾勝己教授は「大学博物館は一般的な意見をさらに取り入れ、足を運んでもらえるよう取り組むべき」と語る。一方で大学博物館の開催するイベントは、学びが重要で、楽しいだけでは駄目とも指摘する。

 「大学博物館は教育の一貫でつくられたため、大学生にぜひ見てほしい。研究教育に対応でき、かつ一般の人も含め楽しめる場として今後はより開いていけたら」と赤尾教授は活用を勧めた。