vol.276「無機質だけど、芯に体温のある役」
エロスの世界を追求した映画「赤い玉、」。主人公である中年の映画監督・時田が、「老い」が「性」に追いつく葛藤と焦燥感の中、それでも男たちが探し続けている「不確かなもの」を求め続けるさまを描いた作品だ。京都造形芸術大での実践的な映画製作教育の一環としても制作されたこの作品は、同大の映画学科長でもある高橋伴明さんが監督。スタッフもほとんどが学生や教職員が参加する中、主人公を狂わせる女子高生・律子の役を、オーディションで選出された村上由規乃さんが演じた。
入学前にキャスト募集の張り紙を見たことがきっかけで 「赤い玉、」のオーディションに応募したという村上さん。「映画内では、ご飯1杯でも考え抜かれて置かれている。そのことが、俳優を目指す前からとても不思議だった」。映画に携わった際、一番意義深かったことは、映画がどのように制作されているのかを肌身で感じられたことだという。
村上さん演じた律子は、時田の前に現れる女子高生。時田は律子に一目ぼれし、取りつかれたかのごとく尾行するようになる。「最初の印象としては、違和感のある役柄だった」と村上さんは明かす。他の登場人物に比べて人間らしさの薄い律子を、どう捉えたらいいのか分からなかったという。「律子は本当に存在しているのか」と疑問に思い、何度も脚本を読んで考えたことも。「でも、時田の中の律子は存在しているから、やっぱりそこには人間感は必要。どこか無機質な中、芯に体温を感じさせないといけない役柄だった。その表現をするのは難しかったし、苦労した」とも話した。
性表現に正面から挑んだ「赤い玉、」。村上さんも「役をもらったということは、潔くやらないと。中途半端なのは、監督をはじめとする他のスタッフさんなどに本当に失礼だから」と真剣な表情で語った。
映画の中で非常に印象的な場面である、律子のダンスシーン。村上さんは「結構大変だった」と苦笑した。10月の初めにダンスの練習を始めて11月に撮影と、練習期間が1カ月しかなかったという。「『私こんなに踊れないの?』と思ったし、本当に大変だった。でも楽しかった」。現在ではとても思い入れのあるシーンの一つだ。
大学では、俳優や監督、美術製作など、現場で働く多くの人から映画に関するさまざまなことを学んでいるという。「今も制作に関わっている人から得る言葉は全く違う。信頼感がある」。
「続けられるのなら俳優になりたい。簡単な世界ではないけど」と語る村上さん。「いろいろなことに興味があるので、なんでもやりたい。時代劇や舞台なども、ぜひやってみたい」と話した。まだ俳優として花開いたばかりの村上さん。今後どのような演技を見せ、我々を魅了してくれるのだろうか。
映画「赤い玉、」は今後、関西圏内では大阪シアターセブン、京都みなみ会館などで上映予定(詳細な日程は以下)。また、11月27日〜30日に行われる、演劇企画団体「東洋企画」の舞台「太陽の塔の四つ目の顔を見たことがあるか」にも村上さんが出演する予定だ。
●映画「赤い玉、」
◯大阪シアターセブン
11月14日(土)〜
◯京都みなみ会館
11月30日(月)〜12月11日(金)
※その他、広島や九州など各地の映画館でも上映予定。
(http://akaitama.com/cinema.htmlより)
●東洋企画「太陽の塔の四つ目の顔を見たことがあるか」
◯元・立誠小学校講堂
11月27日〜30日
(http://toyokikakupastel.web.fc2.com/next/index.html#dateより)
コメントを残す