足踏み運動から始まり、両手をグルグルしたり、後半には大ジャンプしたり——。戦後すぐの時期に約1年半ラジオで放送され、その後復活することなく眠り続けていた「幻」の第3。安西教授は2年前、YouTubeにアップされていたCD音源を娘にピアノで再現してもらい、古い文献資料に記載された動作解説図を使ってよみがえらせた。復元には同学部の井上辰樹教授(運動生理学)も協力。同年、自前で制作した普及用DVDでは、娘のピアノと井上教授の号令に合わせて同学部の学生3人が第3を実演している。複雑な動作と速めのリズムが特徴だ。

 そもそものきっかけは東近江市(滋賀県)から、市民の健康増進のため、うつ病予防を含めた「こころとからだの健康づくり事業」への協力を依頼されたことだった。それまで第3の存在は知っていたが、どんなものかは知らなかったという。健康づくりの重要性が増すとされる40歳以上の市民の健康調査結果にもとづき「運動強度が高い第3の定着」と「理想的な食生活の普及」を事業内容に決定した。当初はDVDを無料で市民に配布していたが、後に市が有料販売するように。それでも購入者数は増え続けた。最も忙しかったのは1年前。全国からのDVD・CDの希望や講演・実演の依頼、テレビ・新聞などメディアの取材が殺到し、研究活動の危機を感じたこともあったそうだ。

 龍谷大では「幻のラジオ体操第3」という名のサークルが、4月から活動している。大学サイト内には活動内容として「ラジオ体操第3の普及活動」との記載が。市町村、団体、企業などのリクエストを受けていろいろな場所に出向き第3の実演や指導を行っている。安西教授ら教員と学生らがメンバーだ。

 安西教授には今後に向けた目標がある。一つは、複数人がタイミングを合わせて難易度の高い第3を競演するコンテストの開催だ。「仲間とやれば楽しいし続けられる。目標もなくやるよりコンテストという目標を持った方が良い。講演会では(開催したいと)繰り返し言っている」と話す。もう一つは、子どもをターゲットにした普及活動。第3は「子どもにもウケる」と確信を持っている安西教授。家族ぐるみで巻き込んでいきたいと意欲を語った。

 「先生、大学生向けの普及活動は?」と記者が質問すると、「身近な所を考えていなかった(笑)」。しかし教授の知らないうちに、どこかの大学生がラジオ体操に目覚める日もきっと近いに違いない。

 (聞き手=田中弘二)
vol.260