国立大学の文系学部の立ち位置が危うい。国立大学法人評価委員会は、「国立大学法人の組織及び業務全般の見直しに関する視点」で、「教員養成系学部や人文社会科学系学部の廃止や社会的要請の高い分野への転換」を積極的に進めるべきと発表した。今後はその方針に従い、数値目標を伴う意欲的な計画を実行するよう各大学に求めていく。

 国立大学はもともと世界基準の研究と同時に、社会的・経済的な需要に関係なく、重要な学問分野の発展に努めてきた。しかし2004年に国立大学が大学法人化したことから変化。文科省は2013年に策定した国立大学改革プランに則って、大学法人の改革を進めている。最終目標の「持続的な『競争力』を持ち、高い付加価値を生み出す国立大学」を目指し、戦略性の高い目標・計画を積極的・意欲的に実行することを求めた。この中の「組織の見直しに関する視点」に以下の一文がある。「教員養成系学部・大学院、人文社会科学系学部・大学院については、18歳人口の減少や人材需要、教育研究水準の確保、国立大学としての役割等を踏まえた組織見直し計画を策定し、組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換に積極的に取り組むべきではないか」。

 大阪大文学部文学研究科で哲学を研究する山本哲哉さんは、「『投資をしたから市場的価値を返さなければならない』という論理は分かる。しかし、大学はそういう場ではないのではないか」と話す。「直接的には利益を出さず、政治に対し批判的にもなる文系学部にも国は予算を付けるべき。その姿勢こそが民主主義の証でないのか」と国の方針に疑問を示した。「資本主義の論理でしか考えないのは、民主主義の倫理を捨てることになる」。

 心理学を教える教員は、「教育への厳しいメスは残念なこと。もう少し(改革に)幅を持たせてもいいのではないか」と話す。これから大学に入ってくる人たちにも影響を与える問題だという。「長期的な見方で学生の権利を侵害させないようにしないといけない」と警鐘を鳴らした。

 国立大学から文系学部を無くす方針は既定路線だ。この流れはこれから加速していくだろう。大学の立ち位置が大きく変わってきているとはいえ、今回の決定は性急に思える。文系学部は国立大学から本当に切り捨てられて良いものなのだろうか。