水上を自由に走り、たこの受ける風の力で宙に舞うカイトボーディング。中野広宣さん(立命館大・2年)は、9月27、28日に琵琶湖で開かれたカイトボーディングの全日本選手権にて7連覇を果たした。国内無敗の王者は来年、世界に挑む。

 小学6年生の夏休み、祖父が初めてカイトボーディングをさせてくれた。小学4年生ごろから興味を持ち始めたカイトだが「まだ、カイトをするには危ない」と祖父に制されてきた。初めてカイトをした時の感動を中野さんは今も忘れない。ジャンプした時の浮遊感、技を決めた快感、自分で掴む風の感覚。カイトの楽しさに目覚め、のめり込んでいくきっかけとなった。少年はその後、中学2年生の時に日本最年少総合優勝を果たす。プレッシャーや緊張を感じながらも「『勝たないといけない』ではなく『楽しんでやろう』と考えながら戦っています。やっぱりカイトが好きなので」と話した。いつまでも楽しんでプレーすることが上達への近道なのかもしれない。

 カイトボーディングは、カイトを利用してジャンプや回転などの技を決める競技。日本での認知度は低いが、競技人口は世界で数十万人を誇り、年々増加傾向にある。リオ五輪ではセーリングの競技候補にも挙がった。「ヨーロッパでのカイト人気はすさまじいですね、だからオリンピック競技の候補にも挙がった。日本は遅れている」と中野さんは苦い顔。日本での普及はまだまだ課題が多いようだ。カイトボーディングは風と海、この2つの条件がないとできない競技だ。また、日本には冬もあり海に出られる期間が限られる。中野さんは「『今すぐしたい』と思っても海と風がないとできない。カイトをやる、やらないは別にして、まずはカイトの存在を知ってほしい。そのためにも、世界で良い成績を残したい」と日本での普及に前向きな姿勢を見せた。

 来年は世界と戦うことになる。環境や体型がもたらす世界との壁は厚く、その点を補うために頭を使ってプレーすることを意識しているそうだ。「あいつがあの技を決めた、ならあの技を僕は決めよう。もっと高く飛ぼう、回転しよう。そうすれば勝てる」といったように、相手よりも少しでも上を目指す。また、今は「317」という背面で2回バーを回す新しい技にも挑戦している。日本では中野さんだけ、世界でも数人しか決めれない大技だ。来年に控える世界大会では、身につけた技を披露して「8位入賞」を目指す。カイトを愛する少年はいま青年になった。自分の掴んだ風で世界に羽ばたこうとしている。

vol.224