・就活生に共感得られず  2008年のリーマンショック以後、大卒でも就職が厳しくなった。文部科学省によると、昨年度の大学卒業者の2割は非正規雇用などの不安定な職に就いている。就活生の心理的負担は増大し、昨年「就職失敗」を理由に自殺した20代は149人にのぼり、2007年のおよそ2・5倍に急増している(警察庁調べ)。就活デモは、就活システムや文化に疑問を抱く若者たちが、その苦しみを社会に向けて解き放つための運動だ。2009年以来毎年11月23日の勤労感謝の日に全国各地で開催されてきた。特に2010年は多くのマスメディアに取り上げられるなど社会現象となり、翌年には国会議員を交えた勉強会が開かれた。 ・参加のメリット薄く  賛否両論はあるものの、当事者たちによる貴重な訴えの場とされてきた就活デモ。だが、年々就活をしない学生や市民団体が介入する「当事者なきデモ」と化している。11月23日に神戸で行われる「就活問題アピール@神戸」を企画した男子学生(関西学院大・4年)も就活を経験していない。「不満を持っている当事者がいなくても、僕らのような自由人なら積極的に声を上げることができる。もちろん就活生や経験者にも来てほしい」という。だが、今年就活を控えた男子学生(同志社大・3年)は「システムを批判しても代替案を出せないし、声を上げても意味がない。どうせ就活しないといけないから参加しない」と批判的だ。  社会学者の鈴木謙介氏(関西学院大准教授)は、就活生がデモに参加しない要因を当事者が得られるメリットがないことだと指摘する。「内定という『イス』に座りさえすれば、就活を勝ち抜ける。わざわざ社会に異議を唱えるよりも、自分の安定を優先する学生が多いのは仕方ない」。また、就活生にとってはリスクも大きい。就活前にデモに参加した女性(23)は「自ら批判してきた就活の当事者になるという相反した状況に苦しんだ」と話す。 ・デモの有効性あるが  当初の目的から離れていく就活デモは、無意味なものなのか。鈴木氏は「就活システムを抜本的に変えることは難しいが、長い目で見るとデモを続けることに意味はある」と話す。「面接の回数を減らしてほしい」「選考先までの交通費は企業負担」など具体的で共感されやすいワン・イシューを設定し、地道に回数を重ねれば参加者も増え、改革につながるかもしれないと鈴木氏は考える。  だが企画されるデモに変化は見られず、就活生や経験者もなかなか集まらない。今年の神戸デモに向けた集会でも、具体的な方針を決めようと議論が重ねられた。しかし結局参加者の意見はバラバラでまとまっていない。就活デモはこのまま当事者不在の恒例イベントにとどまってしまうのか。