元学生「返せない」  「返したくても返せないんです」。Kさん(34)は院生時代に機構の第1種奨学金、総額635万円を借りた。卒業後、埼玉の大学で非常勤講師の職に就いたが、仕事の口は少ない。塾のアルバイトを掛け持ちするが、日々の生活費で精いっぱいだ。機構では通常、卒業した年の10月から返還を開始しなければならないが、低所得者に配慮し最長5年の返還猶予期間、またその後も年収300万円を超えるまでの猶予制度がある。「このままではいつまでも返せない」。Kさんは来年返済猶予期間5年目が迫り、焦りを感じている。 弁護士「まるで金融事業」  経済状況の厳しい家庭の子供が貧困の連鎖から抜け出すために、勉強し学歴を手に入れるという手段がある。大阪弁護士会の山田治彦弁護士は、自身の奨学金や子供の連帯保証人としての債務を抱える依頼人が年々増えていると感じている。「経済困難者を手助けするはずの奨学金が『借金』として足かせになる。貧困の連鎖を悪化させる貧困ビジネス化している」と実態を嘆く。返還が滞ると年利10%の延滞金が発生。しかも延滞金発生後の返還金はまず延滞金、その後利息分、元本の順に充てられるため、延滞金10%以上の返還ができないとますます「借金」が増えていく仕組みだ。独立行政法人化した2004年頃から回収強化を始め「機構は金融事業化してしまった」と山田弁護士。延滞3カ月で個人信用情報機関に登録、4カ月で業者に回収委託、9カ月延滞すれば法的措置が取られる。就職難や不安定雇用などに加え、奨学金制度にまでも若者は追い詰められる。 声上げる苦学生 各地でデモ・シンポ  8月末、文科省は機構の奨学金の無利子枠や延滞者の救済策拡大の方針を発表したが、財源の問題から未だ給付制度創設の見通しは立たない。そもそも日本の教育は受益者負担論が前提とされる。教育費が有償なのに公的な給付奨学金制度がない国はOECD34カ国中では日本のみ。教育費の自己負担額が大きく、時代とともに大学の授業料が上昇し続けるため、当然学生が奨学金を借りる額は増える。  「学費の無償化と給付制奨学金設立を!」 7月東京で、全国学費奨学金問題対策委員会の学生らおよそ100人がデモを行った。代表の渡辺美樹さん(東洋大・4年)は「教育の機会均等のための奨学金なのに、給付じゃないのはおかしい。貸与は『学生ローン』だ」と訴える。デモや勉強会を通して「学費や奨学金制度の劣悪な実態を社会全体に知ってもらいたい」と話す。  関西でも9月に大阪弁護士会主催のシンポジウム「奨学金の仕組みってどうなってるの?」が行われた。参加した北村諒さん(関西大・2年)は「当たり前のように借りてしまった奨学金だが『借金』だと意識するようになった」と話す。給付制奨学金や教育のための財源を出すためには、受益者負担論が浸透する日本社会の根底を変える必要がある。その道のりは長く険しいが、学生は声を上げ続ける。 関連記事はこちら http://www.unn-news.com/special/4195 http://www.unn-news.com/news/201310034781