○関西主要大の現況
 
 東大の秋入学導入にむけた動きは、関西圏の大学にも波紋を投じた。UNNが取材した7大学の広報担当によると、おおむね具体的に今後の動きを回答できる段階ではなかったが、検討の開始を決定、あるいは検討する可能性を示唆するなど、無視できないという姿勢が伺えた。
 
 京大は2月3日、「タスクフォース」なる検討機関を設けると発表し、東大に続いて本格的な検討に動き出した。留学生、資格試験、高校や企業との兼ね合いなど、秋入学についての検討にあたるという。
 
 すでに秋入学をごく一部で実施している大学もある。阪大は人間科学部などで一部秋入学を実施している。また、関学は来年度から国際学部で若干名を対象に9月入学を導入する予定だ。阪大も関学もさらなる検討を決定しており、秋入学拡大の可能性を示唆する。立命も来年度より国際関係学部で日本人学生を対象とした秋入学の受け入れを開始する。広報によると「全面移行するという話はないが、教学改革を進めるなかで、学部ごとに秋入学の実施について検討している」という。
 
 神戸大は「検討しなければと思うが、具体的にはまだ何もない」としており、関大も「具体的にはない。検討する必要はあるかもしれない」と、慎重な姿勢をみせながらも含みをもたせる。一方、同志社大のみ「秋入学については、まだ東大の一つの提案でしかない。まだコメントする立場にはない」と回答を差し控えた。
 
 
○東大は他大、産業界を巻き込む考え
 
 東大は単独での移行ではなく、他大、産業界をふくめ、社会を巻き込んで秋入学へ移行する姿勢を見せている。東大は京大、阪大など計11大学には昨年4月以降、公式・非公式に秋入学の話を持ち出していた。さらに1月から「中間まとめ」をもとに「親しく話を行った」(東大広報)という。そのほか一橋大、名古屋大、早稲田大などに話をもちかけている。
 
 ところで、日本の大学は明治時代、秋入学だった。当時は外国人教員を採用する必要上、入学時期を欧米と合わせる必要があったためだ。日本人教員の増加や会計年度との整合性のために1921年から春入学になった。しかし、1987年の臨時教育審議会、2007年の教育再生会議などで折に触れて秋入学の話は持ち上がっている。その必要性やメリットは再三指摘されながらも莫大な移行コストがかかるために、実施できずにいたのだ。
 
 今回は行政からのトップダウンではなく東大が先陣を切って単独で全面移行しようとしていることが大きな違いだ。将来的に、他大や産業界も東大にけん引されるかたちで、秋入学にあわせた改革を行う可能性がある。
 
 
○秋入学の光と影 国際化、就活、ギャップターム
 
 すでに秋入学を実施している阪大、実施予定の立命や関学が導入の理由に挙げたのは一様に「国際化」だ。背景には抜き差しならないグローバル化の波がある。日本は欧米と比べ、留学生の受け入れも送り出しも少ない。秋入学だけで国際化がなされるわけではないが、英語での授業など他の施策と合わせて導入することで、国際化への効果が期待される。 
 
 また、秋入学を導入すると高校卒業と大学の授業開始の間に、半年間の空白期間が生じる。いわゆるギャップタームだ。東大は社会貢献活動、海外での学習、勤労体験、研究の現場に接する体験活動などを支援する仕組みを構想している。ギャップタームは過ごし方次第では大きな価値を生むだろう。
 
 一方、大きな問題は、就職活動や各種国家試験との整合性だ。「問題は出口」と関学広報。関学の総合政策学部では、かつて1995年から春入学と併存するかたちで秋入学を実施した。しかし、就職活動で不利にならないように4年と半年在籍する学生が多くなり、志願者は年々減少。2004年に廃止になった。立命の広報担当も「企業採用、公務員試験、各種国家試験の時期が現行のままでは学生が対応できなくなる」と指摘している。秋入学は社会のシステムにまで関わってくる話なのだ。
 
 前途は多難である。しかし、日本の大学が大きく変わるきっかけにもなりうる。各大学の「検討」は何を生み出すのだろうか。