————なぜこの様な事態に。
 
「様々な情報を総合すると、地震ではなく津波が原因です。原子力発電所自体も発電していますが、原子炉の運転は外部からの電力供給に頼っています。また、敷地内に外部からの電力供給が断たれた時の非常用発電設備を持っています。しかし、津波によってその機能が損失したため、このような状況に陥っていると考えられます」

 

 

 

 

 

————復旧するには。

 

 

 

 「原子炉復旧のための3つの原則というものがあります。止める、冷やす、放射性物質を閉じ込めるの3つです。地震発生直後、原子炉を止めることは出来ましたが、津波によって電力供給が断たれ、冷却装置が止まっています。まずは冷やすことが重要で、現在は海水を原子炉に入れて燃料を冷やしている状態です」

 

 

 

 

————今後どうなっていくか。

 

 

 

 「はっきりとしたことは何とも言えませんが、現時点の把握している状況でお話します。1、2、3炉は現時点では燃料棒が十分ではないですが、ある程度は冷やされています。その状況が続く限り、メルトダウン(炉心が全部溶けている状態)には到らないはずです。ただ、冷やす機能が損なわれるとメルトダウンする可能性もあります。4炉は定期検査中で、1、2、3炉とは異なり、原子炉の中には燃料がありません。代わりに、その燃料はプールに入れられて、数か月冷却されておりましたが、いまだに発熱が続いている状況です。電力が津波によって断たれたため、その冷却がままならず、やがて水がなくなっていき、燃料がカラ炊きになる恐れがあります。メルトダウンにまで繋がるかは正確には計算するまで不明ですが、私はその可能性は低そうだと考えています」

 

 

 

————最悪の場合は。

 

 

 

 「現時点で考えうる最悪の場合は部分的に燃料がとけ、水蒸気爆発が生じ、部分的に格納容器や圧力容器を破損させ、今まで以上に放射性物質を放出させる事態です。その可能性は極めて低いですが、0ではありません」

 

 

 

————復旧後はチェルノブイリのようになるのか。

 

 

 

 「このまま終息すると仮定すると、周辺立ち入り禁止とはならないと思います。放射性物質は十分に除去してしていけるレベルにあると考えられるからです」

 

 

 

 

————現在放射能が漏れてるが、どのような影響があるか。

 

 

 

 「局所的に人体に影響が出る可能性がある値は出ていましたが、退避圏の外で観測されている値を見る限り、健康に影響が出る値では無いので恐らく大丈夫だと思います」

 

 

 

————ヨウ素を摂取すれば、甲状腺被ばくを防げるか。

 

 

 

 「原子炉の燃料の中でウランが核分裂して様々な放射線物質ができますが、そのなかに放射性のヨウ素があります。それは体内に取り込まれると甲状腺に取り込まれる性質があり、そうなると甲状腺のガンの発生リスクが高まります。ただし、甲状腺に取り込まれるヨウ素の量は決まっているので事前にヨウ素剤を摂取すれば、非放射性のヨウ素が取り込まれ、放射性のヨウ素の入る余地が無くなり、人体に入ってきても取り込まれなくなります」

 

 

 

————ヨウ素を多く含む、海藻類を食べるのは。

 

 

 

 「それはチェーンメールなどで流れているデマですね。実際に海藻やイソジンなどを摂取してもほとんどヨウ素は吸収されません。政府が原子力防災のための資材としてヨウ素剤を準備しているので、それを適切なタイミングで適切な量を摂取すればいいです。必要な時には政府が適切なタイミングで、適切な量を出してくれるので、安心して下さい」

 

 

 

————東京電力の対応をどう思うか。

 

 

 

  「緊急事態における情報共有のあり方を考えさせられる最も典型的な事例だと思います。よく現場の情報の遅れが問題になりますが、情報が遅れるということと対策に支障が出るかは少し異なります。対策に支障がないものは緊急性は低く、その逆は高い。情報にプライオリティーをつけること、タイムリーさが問われています。タイムリーさという観点では、緊急対策本部は妥当なタイミングで情報を提示していると思います。また、命を賭して最大限の努力をしている現場の方々には敬意を表するべきだとも思います。我々専門家が出来ることは状況を把握、判断して、その状況をメディアを通じて詳しく発信していくこと。そのためにはもう少し細やかな時系列のデータを頂ければ助かりますね」

 

 

 

————今後の対応策は。 

 

 

 

 「今回の地震の一番のキーポイントは津波。水が原子力施設に与えた影響が想定を超えていたためこのような事態を招きました。現時点での原子炉の設計に津波の影響は考慮されていましたが、それをはるかに超えた津波でした。日本の原子力発電所は全て海沿いにあります。なので、その合理的な基準を今後考えていくべきです。想定される基準最大津波などを国が予測から想定する。そこから施設の安全設計が妥当かを考え直していく必要があります」

 

 

 

————今後原子力エネルギーはどうなると思いますか?

 

 

 

 「日本全体の原子力エネルギーの位置付けを研究していますが、日本のエネルギー政策そのものの根本的な見直しの議論が必要になるでしょう。原子力を止めたとして、それをどのようにまかなうのか。ライフスタイルや産業のありかたなどにまで発展した議論が必要です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宇根崎教授は日本原子力学会の関西支部で放射線などに関する正しい知識の普及活動を行っている「かんさいアトムサイエンス倶楽部」のメンバーでもある。今までにも、高校への出前授業や青少年の科学の祭典などで実験を行ったりと精力的な活動を行ってきた。ミクシー(http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1688758100&owner_id=5995504)でも他のメンバーと共に放射能などの情報を発信している。「今後も、放射線などに関する正しい知識について配信していきたい」と意気込みを見せた。