亡き息子の思い、歌に乗せて
『これまでに、ほんのひとときとして、あなたの優しく温かく大きく、そして強い愛を感じなかったことはありませんでした』(貴光さんの手紙より抜粋)
貴光さんの夢と母りつこさんへの感謝の思いがつまった手紙「親愛なる母上様」は2007年、インターネット上で偶然手紙と出会った奥野さんによって曲が付けられた。神戸大では、2年前に六甲台キャンパスで行われた慰霊祭で初めて演奏された。
2008年に陶板となった貴光さん直筆の手紙。昨年7月、西宮市で行われた展示式の際には、2回目のコンサート計画がりつこさんの友人によって進められていた。当初は学園祭での開催を試みたが、コンサートとの主旨の違いなどを理由に断念。だが、広報を頼まれていた神戸大学ニュースネット委員会の学生らが昨年11月から企画を開始し、講堂でのコンサートが実現した。りつこさんは「(息子が講堂に)来てるような感じだった」と振り返る。
メンバーの1人が亡くなった神戸大生の親族であることをきっかけに、出演が決まった「human note」の有志6人は、奥野さんの演奏に先駆け「見上げてごらん夜の星を」など3曲を熱唱。歌を通じて「人と人がつながることの力強さを表現したい」と代表の寺尾仁志さんは来場者に語りかけた。
『私は精一杯やってみるつもりです。あなたの、そしてみんなの希望と期待を無にしないためにも、力の続く限り翔び続けます』(貴光さんの手紙より抜粋)。「親愛なる母上様」が演奏される前にりつこさんは、静かな伴奏に合わせて貴光さんの夢や思い出を語った。
りつこさんの話と、手紙を朗読するかのように歌う奥野さんの歌が響き渡った会場では、多くの来場者が涙を流していた。貴光さんの手紙をきっかけに、多くの出会いがもたらされたというりつこさん。これまでの活動を通じて「刹那(せつな)刹那の喜びでしかなかったものが、継続的な喜びに変わりつつある」と笑顔を見せた。
当日チラシを見てコンサートに訪れた学生の半田佳菜さん(神戸大・3年)は、「お母さん(りつこさん)の話を聞いて、涙が止まらなかった」と話す。(学内の慰霊碑を見て)亡くなった学生がいる認識はあったが、実感がわかなかったというこれまでと比べ、「(犠牲となった)学生の人生を知ることで、震災に対する見方が大きく変わった」と心境の変化を語った。
○神戸大学ニュースネット委員会編集長・浅井淳平(神戸大・2年):「日常ではなかなか聞けない遺族の声が聞けて、訪れた人に震災のことをもう一度考えてもらうきっかけになったと思う。私たち自身、今後の震災取材に生かされる機会となった」
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