「価値観を変えさせられた」。福田さんは事故を思い返す。大学3年生だった当時、大学に行く為事故車両の先頭車両に乗車。衝突の影響で椅子の下敷きになり、鎖骨が折れ、額が傷つけられ、傷跡が今でも残るなどの重傷を負った。ダメージを受けたのは身体だけではない。急性ストレス障害を患い、興奮を抑えるための薬を服用している。

 幼少期から「絵描きになりたい」と思っていた福田さん。以前は人を描くことを得意としていたが、事故が起きてから描けなくなった。「事故を思い出し、手が震えるから」。その為、肌色を使わず、人の形をしていない人物画を描こうと考えた。「事故がなかったらこういう発想はできなかったと思う」と話す。
 最近になり、震える手をもう片方の手で支えながらも、人の形を残す人物画が描けるようになった。「ここまで来るのに本当に時間がかかった」と福田さんは話す。

 去年の卒業制作では「自分が思っていた」絵が描けなかった。満足な絵を描くことができない悔しさ、学業関係の問題でもう1年大学に留まることに。

 今年の卒業制作では人物画を2作描いている。
1作は、前期に評価が済んでいるが、今も手を加えている。人の形をしていない人物画として描いているが、どうしても事故当時の風景になってしまうという。「同じ列車に乗っていなければわからないこと」。そのことを友人らと容易に相談することができず、悩みながらも描いている。「そういった(苦悩する)気持ちも全部絵にぶつけていく」。
 もう1作では、人の形を残した人物画を事故後、作品として初めて描く。1月に行われる合評での評価に間に合わせる為、現在制作に追われている。

 完成した2作のうち1作は卒業制作展で展示される。