【3・4月号掲載】コラム・おんな坂

昔、ある挑戦をしていた。「初めて入る飲食店で常連のように振る舞えるか」だ。当時、常連ぶることがかっこいいと思っていた

初めて挑戦したのは、高校3年生の夏。大阪市の京橋にある大衆食堂だった。入口から呼吸が浅くなった。タバコの臭いが立ち込め、煙に目に染みた。客層は昼間からお酒を開けるおじさんと仕事で汗を流し、休憩にやってきたおじさん。私はなぜか小学生がドッジボールで人にボールを当てようと粋がるようにワクワクしていた。しかしそんな場所に女子高生が行くこと自体珍しいので、平静な態度を取らなくても、ある意味では常連に見えたのかもしれない。ただ、注文をする際に料理のサイズなどの慣れない設定に動揺し、頼み方が分からずタジタジだったという苦い思い出だ。私はそれでも、別の店で平静を装えるかの挑戦を何度もしたのだが

大学生になればさまざまな経験ができる。授業やアルバイトにサークル。新しい出会いがある場所へ踏み出すとき、一歩進むことにおびえていては何も得られない。自分で動かなければ何も得ることができないのだから

そう考えると1人で食事に行くときに「仮面をかぶって平静を装う訓練」をしていたのは、あながち間違っていなかったのかもしれないなと今振り返れば思うのだ。   【川村嶺実】

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です