10月7日に発表されたノーベル物理学賞。名古屋大の天野浩教授ら3氏が受賞した。学部卒業時の大学別で見た自然科学系の歴代ノーベル賞受賞者数は京都大の6人を筆頭に、東京大が4人、名大が3人。「旧帝大」と呼ばる大学の中でノーベル賞受賞者を1人も輩出していないのは、大阪大と九州大だけだ。

 阪大の研究が他大学と比べて劣っているわけではない。阪大では各分野でレベルの高い研究が行われ、ノーベル賞候補者もいる。中でも、生命機能研究科の柳田敏雄特任教授は有力候補とみられているが、受賞に向けては壁も多いようだ。

研究の展望を語る柳田特任教授(撮影=水谷菜那子)
研究の展望を語る柳田特任教授(撮影=水谷菜那子)

▶︎アピール不足 受賞遠のく

 阪大出身の受賞者がいないことについて「アピール不足が大きいのでは」と柳田特任教授は指摘する。

 日本では海外と比べ、マスコミを利用した研究発表の場が少ない。大学による研究成果のアピールも影響しそうだが、大学側は阪大POSTの取材に対し「ノーベル賞への取り組みは特段何もない」(広報課)と回答している。

 また、柳田特任教授は「タイミングの問題など、不運が重なっているのだと思う」と話す。阪大の研究は今回物理学賞を受賞した3氏が開発した青色発光ダイオード(LED)とは違い、多くの人の目に触れる派手さがないことも絡んでいると分析する。

 類似分野からの受賞者選出が柳田特任教授を受賞から遠ざけている。10月8日に発表されたノーベル化学賞は、研究者のエリック・ベッチグ氏ら3氏に贈られた。受賞理由は「超解像度の蛍光顕微鏡の開発」。分子の挙動を一分子レベルで解析できる「一分子計測」という技術を用いた研究成果だ。

 一分子計測を開発したのは柳田特任教授だった。一分子計測の分野での受賞が有力と考えられていたが、今回は近い分野の超解像顕微鏡が受賞。柳田特任教授は「もう一分子計測の分野での受賞は難しいと思う」。

▶︎新分野で受賞なるか

 柳田特任教授は今後について、「生物の『ゆらぎ』の分野で受賞ができればうれしい」と話す。

 「ゆらぎ」とは、電気システムが動く上で生まれる誤差やノイズのこと。柳田特任教授は一分子計測を用い、生物機械と人工機械の違いは「ゆらぎ」と結論付けた。生物機械は「ゆらぎ」を有効利用しているため、活動に必要なエネルギーが人工機械に比べて格段に少ない。

 阪大の基礎工学部で学んだ柳田特任教授が研究の強みとするのは電子工学の知識を持っていることだ。修士課程修了後、生物学の研究室に入り、生物機械と人工機械の違いを見いだすために、一分子計測を開発。現在は、細胞から脳や神経レベルで研究を行い、人工機械での「ゆらぎ」の活用法の解明を目指している。

 柳田特任教授はノーベル賞受賞について「科学者としては意識していないが、阪大の教員としては意識せざるを得ない」と話す。「ゆらぎ」の分野での受賞はできるのか。引き続き、期待が寄せられている。