「お飲み物はどうしますか」。カフェバーに入ってきた10人ほどのお客に声をかける女性型アンドロイド。5畳ほどの空間の一角にちょこんと腰掛け、首を振り愛嬌を振りまく姿に周りの人々は驚きの声を上げた。その後も「彼女」は持ち前の明るさと気配りで場を和ませる。「好きな人のタイプは」と聞かれると「私の話を聞いてくれる人」と答える。「男の人は私を怖がるの」とちょっとすねてみせる。そして「お散歩に行きたいけど足が動かないからいけないや」と自嘲気味に笑う。
 わずか30分間のお客と彼女の会話。しかしお客の一人は帰り際に「アンドロイドっていわれんやったら、お店で隣に座っていても人間と思ってしまうやろなあ」と話した。
 
 「アンドロイドが世の中にいる状況で人間はどう反応するのか」。それがアンドロイドの館を開催する大きな目的だと構成と演出を担当した齋藤達也さん(東京芸術大学)は話す。人間のコピーロボットであるアンドロイドの研究を発表するのは普通、研究者向けのデモや技術発表の場に限られる。そこではアンドロイドと人間との関係がアンドロイド側からの一方的なものになってしまうという。そこで今回は初の試みとして、カフェバーという公共的で人間の生活空間を舞台にアンドロイドと人間がもっと人間らしい関係を構築する空間を演出した。
 お客同士、お客とアンドロイドのその場で起こるコミュニケーションを大切にするために、はっきりとした設定や指示は行わなかった。開催期間中、「女性型アンドロイドの写真を勝手に撮るのは失礼じゃないか」とお客の一人が言った。それはアンドロイド個人の人格が認められているという何よりの証拠だった。
 アンドロイドと人が共に生きるかもしれない未来。そこではアンドロイドが介護の現場や自閉症患者とのコミュニケーションなどで役割を得るように期待されているという。しかし、石黒教授や齋藤さんは別の可能性を提示する。「社会に対する機能としてだけでない、人間とアンドロイドのあり方があってもいいんじゃないか」と。