大竹文雄教授(社会経済研究所)と経済学研究科・博士課程の学生らが「芥川賞・直木賞受賞が余命に与える影響」という論文を発表した。芥川賞作家は受賞しなかった候補者より平均的に長生きとなることを示し、直木賞では逆となる可能性を指摘する内容だ。同研究は昨年11月の行動経済学会でも発表された。

 芥川賞を受賞した芸人の又吉直樹さんが経済学を学ぶNHKの番組で、大竹教授は昨年、芥川賞の経済学について取り上げた。番組の打ち合わせの際、著名な賞の受賞者は長生きするという研究があるので芥川賞でも当てはまる可能性があると指摘。番組制作会社のスタッフが過去の芥川賞・直木賞の受賞者と落選者の寿命を調べたところ、賞と寿命に関係があるのではと思わせる結果が得られ、より厳密な統計解析をしようと思ったという。

 社会的地位や経済所得が個人の健康度や寿命に影響を与えるという因果関係を考察した研究例は多い。著名な賞の受賞は寿命との因果関係の検証が可能だとされ、アカデミー賞やノーベル賞の寿命効果を取り扱った論文もある。

 データの扱いや分析手法には、緻密さが必要だ。今回の場合、学歴や出生地、兼業の有無、他に受賞した文学賞の数など寿命に関わるとされる他の要素を排除し、なるべく純粋な比較ができるよう調整した。また、「長生きしたことで受賞できた」という「逆の因果関係」が分析結果に与える影響を取り除くような統計的処理を行った。

 その結果、芥川賞では受賞によって死亡確率が下がる傾向が見られた一方、直木賞でこの傾向は見られなかった。また、初めての候補入り以降の平均余命の予測値も示され、芥川賞では受賞者が受賞しなかった候補者より3.3年長く、直木賞では3.3年短くなるという結果だった。

 芥川賞候補は純文学の若手作家、直木賞候補は生活が安定している大衆文学の中堅作家が多い。大竹教授は「所得水準が低く不安定な状態で受賞する芥川賞は生活水準を向上させる効果が大きいので寿命にポジティブなショックを与え、すでにベストセラー作家の地位にある人にとって直木賞の受賞は仕事・ストレスを増やし寿命にマイナス影響を与えるのでは」と推測する。

大竹先生イラスト