8月26日に第18代大阪大総長に就任した西尾章治郎氏が就任直前の同24日、阪大POST通信社のインタビューに答えた。この中で西尾総長は「トップダウン的に指示するだけではなく、ボトムアップとのバランスがとれるように」と述べるなど、強い指導力を発揮しながら学生や教職員らの声を大学運営に反映させることは可能だとする考え方を示した。

 西尾総長は、総長選考で提出した所信表明の中でも特に重視しているポイントとして「構成員との合意形成」を挙げた。構成員とは学生や教職員など大学の関係者を指す。「構成員が阪大のために頑張ろうとすれば阪大は素晴らしい大学になる。一緒にやりましょうと話しかけていきたい」と抱負を語り「総長としてのリーダーシップはもちろん大事。だけど、そのことと構成員との合意形成とは矛盾しないと考えている」とした。

 また「阪大の中には、表彰や受賞など(で注目を集めること)はないが、大学のためを思って職務に励む方、コツコツと毎日研究しておられる方もいる」、「(彼らも含めて)一人一人に目配りしているという姿勢を示したい。そういう点で阪大が変わっていくところは見せたい」と意欲をのぞかせた。

 このほか、文部科学省が人文社会系の学部・大学院の廃止や別分野への転換を全国の国立大に求めた通知については「(これからは自然科学系は)人文社会系の学問とも一体となってやらないと新たなイノベーションはなされない。(人文社会科学系は)今まで以上に重要になる、そういう時代になると思う」などと述べ、人文社会系の学問が軽視されるのは問題だとする見解を示した。

以下、インタヴュー全文。

◎任期は6年

――就任を直前に控えた今のお気持ちは?(新総長には8月26日に就任した。)
 6月12日に(新総長に)決定した後、いろんな企業の方に会った際、阪大出身者がおられて、「阪大出身です」「阪大を誇りに思っています」「(阪大が)どう発展していくか気にしています」と声をかけられることがあり、今は総長としての責任の重さを実感している。また、阪大の構成員――これは学生、教職員以外に社会に出ておられる方や阪大を志望する高校生も全て含んで構成員と考えている――がコミュニティだと感じた。任期は6年間だが、先輩から受け継いだ歴史の中の一部。6年のうちにいかに発展させるかが大事だと思っている。

――総長としてどういった役割を果たそうと決めたのか?
 (総長としての方針・ビジョンは)5月8日に提出した所信表明に全て盛り込んだ。(ここで、総長選考で提示された所信表明を記者に呈示。)
 
1.キャンパスのグローバル化の推進
2.「教育の阪大」の特色を活かした人材育成
3.「研究の阪大」のマルチ展開の促進
4.構成員との協調による課題解決
5.財政ビジョン策定のもとでの柔軟な財務運用
 

◎「トップダウン的に指示するだけではなく、ボトムアップとのバランスがとれるように」


――所信表明の中で西尾先生の独自色が出た部分は?
 (基本方針として掲げた5項目のうち)4番目の「構成員との合意形成」を重視している。教員、職員には素晴らしい方がたくさんいる。阪大のために日夜頑張っている。そういう構成員が阪大のために頑張ろうとすれば阪大は素晴らしい大学になる。一緒にやりましょうと話しかけていきたい。トップダウン的に指示するだけではなく、ボトムアップとのバランスがとれるようにしたい。総長としてのリーダーシップはもちろん大事。だけど、そのことと構成員との合意形成とは矛盾しないと考えている。これは所信表明の中で大事にしたことだ。
 (基本方針5項目のうち1番目のグローバル化について)「国際化」と「グローバル化」は違う。国際化は国境がきっちりあることを前提にしているのに対し、グローバル化は「地球はひとつ」で、国境の意識をなくして考える。グローバル化を実現するために、大学は大事な場所。大学として(グローバル化実現が)より求められていくと思う。大阪外大との統合ともあり、阪大にはアドバンテージがある。留学生と留学生じゃない学生とのコミュニケーションがとれるようにしなければならない。
  (基本方針5項目のうち2番目の「教育の阪大」について)12年前、国が支援する人材育成プログラムにいろんな大学が申請して阪大が特に多く採択され、「教育の阪大」と言われたことがあった。元からそういう素養があったのだ。阪大は教育理念として「教養」、「デザイン性」――これは問題を解決する能力と考えてもらえればいい――、「国際性」の3つのメインコンセプトと「コミュニケーション能力」を重視した教育の指針を明確に提示した。(それらのプログラムは)他大学をリードし、(後に)他大学が(阪大を)まねしていった。私は総長になったとき、このコンセプトを見直して、より強化しようと思った。中身を斬新なものにしなければと思っている。

――教育の取り組みというと、博士課程向けの重点的なプログラムが多いが。
 学部の4年間もそうだし、高校生も大事。入試はこれまで学力・知識を重視してきた。大学を出てからが長いなら、いかに(さまざまな)状況の中で問題を解決していくかという能力、そういう力を持った学生をいかに多く送り出すか。学力も大事だが、今までと違う環境で努力できるような力を学部のときも学べるようなことをやっていきたいと思う。
 
――総長が新しくなったということで、大学の姿も変わっていくのか?
 総長が替わったからといって大学ががらっと変わるものではない。ただ、ぜひ次のことを(記事に)書いてほしい。阪大の中には、表彰や受賞など(で注目を集めること)はないが、大学のためを思って職務に励む方、コツコツと毎日研究しておられる方もいる。そういう方が阪大にいて良かったと思えるような、(彼らを)温かく包み込める環境にしたいと思う。大学の中で、一人一人に目配りしているという姿勢を示したい。そういう点で阪大が変わっていくところは見せたい。
 

◎「人文社会科学系の統廃合問題」に対して


――文部科学省の「国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて(通知)」(6月8日)内の「組織の見直し」の中で、人文社会科学系の学部・大学院の廃止や別分野への転換を求めた内容が議論を呼んでいるが、西尾先生はどう考えているのか?
 私自身は、特に最近というかこれからのことを考えると(人文社会科学系の学問は重要だと考えていて)、イノベーションのもとは自然科学系の研究がベースになっていたとよく言われる。たとえばインターネットが社会を変えた。社会が複雑になればなるほど健全な改革をしていくことが難しくなり、人間への影響を考えると、人文社会系の学問とも一体となってやらないと新たなイノベーションはなされない。例えば法規制は重要だ。人文社会系が軽視されるのは問題なことだと思う。(人文社会科学系は)今まで以上に重要になる、そういう時代になると思う。学系の境目がなくなっていくのではないか。そういうことを視野に入れた組織づくりが求められれば、改革も行うつもりだ。また、人文社会科学系の学者には、そういう意識を持ってもらいたい。
 総合大学として、大きな社会の歯車としても、人文社会系の知の創出は必要だ。
 成果を出していないという批判があるが、私はそう思わない。人文社会系学者の著作を読んで感動したり心が癒やされたなら、それも成果だと思う。人文社会系と自然科学系とでは、成果を測る尺度が違う。その違いを明確にする必要がある。

――(尺度を明確にするのは)難しいことだと思う。
 難しい。が、そういう努力をしなければならない。


◎基礎研究を重視


――人文社会系以外でも組織(学部や研究科)の見直しについての考えがあるか?
 大学では、物事の真髄を究める基礎研究が応用につながっていく(ので、基礎研究を重視する)。企業と違って、数年先(という短いスパン)では考えない。文科省もだんだんと基礎研究重視の方向に考え方を変えつつあるようだ。
 (ここで、西尾先生側から話題を変え、)グローバル化だけでは表層的かなと思っていて、グローバルとローカルの両面性のある学生が育っていけばいいなと思う。フィールドワークしようと思えば、調査者が地域のコミュニティの一部として認めてもらえなければいけない。
 (さらに、「教養」について、)年次が上がるほど高度な教養が必要になる。昔は大学院に行くほど視野が狭く(苦笑)。社会が(教養を)求めている。世間から見れば無駄なことをしているように見えても、何かに一生懸命打ち込めば人間としての成長につながる。そんなことは学生時代でなければできない。


◎自身の学生時代


――では、西尾先生の学生時代、どうだったか?
 「善友」、「良師」に恵まれた。「良師」は3人の先生。一人の先生には学問の厳しさを、一人の先生には人とのつきあい方を、一人の先生には社会の中での生き方を学んだ。
   京大から阪大に移ったあたりの頃、パリに行くためホテルを朝の5時に出るとき、先生がわざわざ見送りに来られた。一人一人を大事にするという姿勢を(その先生から)学んだ。
 修士・博士の5年間、先生から数学の問題が出された。黒板に(西尾先生が)答えを書いているとき、合っているうちはうなずいているが、途中で間違えると(首の動きが)止まる。その先生の首を縦に振らせることをずっと考えていた。

――その間は(その先生と西尾先生の)1対1?
 (感慨深げにうなずく。)
「善友」とは同級生だけでなく先輩・後輩も含めて。総長に決まってから、先輩がお祝いの会を開いてくれた。研究室対抗のスポーツ大会も本当に一生懸命やった。スポーツはできる方だった。
――何のスポーツが得意?
 何でも。特に(豪雪地の岐阜県・高山市出身ということもあり)スキー。
――(西尾先生は1988年から阪大に在籍、それまでは京都大だったが)阪大という大学についてどう思うか?
 阪大の学生って先生と一緒になってやろうというところがある。協調性があるなと感じた。みんなで和気あいあいとやる雰囲気がある。京大時代は数理工学、阪大に来てからは情報工学だったという違いのせいかもしれないが。

◎阪大生へ「好きなことに打ち込んでほしい」

――阪大生へのメッセージを。
 世間から見れば無駄なことに見えても、好きなことに一生懸命打ち込んでほしい。勉強はおろそかにしてはいけないけれど、学生時代しか、そんなことはできない。
学生の本音を聞きたいと思っている。かしこまった雰囲気で『大学の総長だ』と緊張した状態では聞けないような声を聞くために距離を近づけたいと思っている。