「文化間の対話」実現
司馬遼太郎記念学術講演会
     大外大主催の司馬遼太郎記念学術講演会が9月29日、大阪国際交流センター大ホールで行われた。収容数1000人強の同ホールは満席となり立ち見も出るほどだったが、若い人は少なかった。【9月29日 大阪外大新聞=UNN】

     5回目となる同講演会だが、司馬遼太郎さんが勤めていた産経新聞社との共催としては、今回で3回目。「日本文化の歴史と可能性」のテーマで、陳舜臣さん、荻野アンナさん、ドナルド・キーンさんの3人が講演と座談会を行った。
     是永駿・大外大附属図書館長が司会をつとめ、最初に赤木攻学長が「こうした地道な文化間対話が大切」とあいさつ。照明を落とした会場で、第1部の講演会は始まった。
     作家の陳さんは「日本文化とアジア」と題し、漢詩や漢字について司馬さんと議論した思い出を、ゆっくりとした語り口で披露。「司馬さんとの論争を思い出して妙な気持ちです。時々、彼の夢を見ます」と話した。
     同じく作家の荻野さんは「日本とフランス」のテーマで、自身のフランス留学の経験から、関西弁や冗談をまじえて聴衆を笑わせつつ講演。能を始めとする日本の空間表現がフランスの劇に反映され、そのおかげでかえって自分が日本文化について学んだ、という出来事から感じたこととして「日本人の中の日本の要素を、外側の人に起こしてもらいたい」と締めくくった。
     日本文学研究者であるキーンさんの講演内容は「歴史と文学」。司馬さんの歴史小説について「翻訳する価値がある。外国人にわかってもらえるまで、あきらめる必要はない」と話した。また、司馬さんのおかげで「歴史はどんな作り物よりも面白いと思った」と言い、読者、友人の一人として感謝を示した。
     第2部は3人による座談会。荻野さんが司会進行をつとめ、そのトークで何度も会場を笑わせながら文化にまつわる話は進んだ。「外から来たものをその通りに取り入れ、自分のものにしてしまうのが日本文化」とは陳さんの言葉。茶道の文化は、発祥地の中国から渡って日本のものとなり、その後中国ではすたれてしまったために日本から逆輸入したという話も。そのほか、鎖国中は生の外国が入ってきたわけではなく、その意味で出島を開いたのは大きかった、など日本文化の歴史について3人は活発な意見を交わしあった。
     最後にキーンさんは「欧米で日本を学ぶ人が多くなったし、日米がもっと近くなるといい。先日のテロ事件の影響で国どうしが離れてしまったら、自分の翻訳という仕事は失敗になってしまう」と、期待と心配の入り混じった心境を話した。また、陳さんは「中国のことはわかってきているが、ブラックボックスであるアラビアなど西南アジアの研究をもっと進めてほしい」と、これからの日本のかじ取りについて1つの方向を示唆した。
     荻野さんが「『陳』さんと『キーン』さんは音が似ているので、きちんと言い分けられて良かった」と最後にも会場をわかせて幕を閉じた講演会。その成果について是永図書館長は「荻野さんが盛り上げてくれたし、あまり体調の思わしくない陳さんが長時間来られることは得がたいことなので良かった」と話す。また「講演者と聴衆間の、そして文化間の接触」が講演会の目的だとしたうえで「ITの時代と言われるが、肉声を聞くことは大切な機会。キーンさんはテロのあったニューヨーク育ちということもあり、文化の接触が破壊行為をなくしていくとわかってもらえれば」と今回の講演に込めた思いを話した。  また、裏方として講演者に接触した岡田新助教授(英語専攻)は「アンナさんが座談会をよくさばいてくれて、うまくいった。陳さんの体の調子やキーンさんの都合などがなかなか合わずにいたが、講演会を企画した当初からお二人にはぜひ来ていただきたいと思っていたので実現したのも良かった」と感想を述べる。大学だけで行うのは難しく、ポスターの制作や運営のノウハウなどは産経新聞社の協力で助かった、とも話した。
     「司馬さんが好きなので、興味深い話だった」とは、新聞で講演会を知ったという同大の院生。40年前に大外大インド語科を卒業したという男性は「座談会の司会がうまく話を引き出していない」と、主催者側が満足していた荻野さんの司会に不満を示したが、同ホールがあるのは以前に大外大が建っていた場所ということで「昔はここらへんが食堂やったなあ」と懐かしんでもいた。
     すでに来年の講演会に向けて動き出しているが、司馬さんにゆかりのある人が大方話し終えたため、産経新聞社との共催は今のところ来年で終わりの予定だという。「これからどうするか、形を変えて続けるかどうかは学長の決めること」と是永図書館長。これまでの講演会を記録した本を出版するという企画も持ち上がっているそうだ。

    【小林朋子】




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