【7月号掲載】コラム 知恵袋

 3年生になって初めて一人暮らしを始めた。理由は、私の就職準備のため。遠方での就職を希望する私に、家族は1人だけの生活を試す機会をくれた

 通学時間を短くするための一人暮らしではない。元々大学と家は近く、必然的に大学の近くに借りたアパートも実家に近い。帰ろうと思えばいつでも帰れる距離にある

 先日引っ越し以来初めて実家へ帰った。日曜日の朝、父から夕食に誘われたのだ。1カ月ぶりの実家は、私の荷物がなくなって少し広く感じた

 久しぶりに父と2人でご飯を食べた。ちょうど母も弟も用事でその場にはいなかった

 父とはいろんな話をした。大学のこと、サークルのこと、アルバイトのこと、将来のこと——。久々の親との会話は弾んだ

 具体的に何を話したかは、細かく覚えていない。だがそんな話の合間、何かの拍子に父が漏らした「お前たち兄弟が家を出たら、この家にはお母さんと2人なんだなあ」という言葉がどうしても忘れられない

 父としては何の気もない一言だったのだろう。だが私には、なぜだかずしりと響いた

 実家に、私はいない。意識すると、どうしようもない寂しさが込み上げてきた。家族がばらばらになってしまうような気がした

 これからの人生で、あとどれくらい実家に帰るのだろうか。考えてみると、そう多くはない。以来、時折込み上げる寂しさを抱えつつ、今日も黙々と記事を書く。いつでも帰れる実家の遠さを、初めての一人暮らしは教えてくれた。【前山幸一】

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