iPS医療 実用化への課題

 患者のiPS細胞から作った網膜色素上皮細胞を移植する手術が9月12日、先端医療センター病院(神戸市中央区)で行われた。手術は網膜の中心部にある黄斑に障害が生じ、物が見えにくくなる加齢黄斑変性の患者に対するもの。iPS細胞をから作った細胞を患者に移植したのは世界で初めて。実用化へ向けて期待が高まっているが、京都大学iPS研究所(CiRA)広報室職員は「医療の現場にiPS細胞が導入されるまでには課題がある」と指摘する。

 iPS細胞を作ってから移植に使えるようになるまでに半年から1年の期間が必要だ。目的の細胞へと変化させ、安全性を評価するなど、さまざまな過程を要する。費用も数千万円以上かかる。細胞を作製する基礎研究も進んでいるが、すい臓や腎臓などの複雑な臓器を作るのはまだ難しい。臨床研究が始まったとはいえ、動物実験段階の研究が多い。医療の現場に行き届くには、効率よくiPS細胞を作製するノウハウを確立しつつ、臨床研究のデータを集める必要がある。

 日本では京大以外のiPS研究は遅れをとっている。世界最大級の学術論文データベースを持つ情報サービス会社「エルゼビア」などが9月に行った調査によると、iPS細胞の論文発表数はハーバード大に次いで京大が世界2位。しかし、国内機関では理化学研究所が20位、大阪大が23位、慶應義塾大が28位にとどまり、出遅れている。CiRAでは、iPS細胞の樹立・培養技術を広めるため講習会と実技トレーニングを定期的に開催している。実用化に向かう中で京大以外の研究者や企業がiPS細胞に関心を持つことが重要となる。

 加齢黄斑変性に続き、CiRAでは高橋淳教授が主導となり進められているパーキンソン病のiPS研究を、数年以内に臨床段階まで移行する予定だ。パーキンソン病は脳内の神経細胞に異常が発生することで「ドーパミン」という神経伝達細胞が減少し、体を動かすのが不自由になる病気。iPS細胞により新たに作製したドーパミンを移植する治療法の確立を目指す。「実用化までの道のりは険しいが、9月に臨床研究が行われたことで足がかりができた」と職員は話す。iPS細胞の研究は脊髄損傷、血液疾患など多岐に渡る。CiRAは今後も臨床研究を行い、安全性と効果を確認する。

 iPS細胞は病気のメカニズム解明や薬の開発にも応用される。CiRAはアルツハイマー病患者から作ったiPS細胞を変化させ病気を再現。アルツハイマー病の中にも複数の種類があることを発見した。患者がどの種類に属しているか区別することで個人に適した治療法を選択できる。

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