消費税率が一部8%から10%になり約2カ月。UNN関西学生報道連盟は、学生生活への影響や学生の税に関する知識と意識、各大学・大学生協の対応を調査した。さらに学生は増税にどう向き合うべきか専門家に聞いた。   

【田中穂乃香、中山晃大】 

「使い道 知らない」5割強 増税への意見 分かれる

 大学生は10月の消費増税をどう思っているのか。学生を対象に、10月19日から11月12日まで、増税に関するアンケートを行い、154件の回答を得た。(図と本文の数値の小数点以下は四捨五入)

影響 8割が実感

 「増税によるあなたへの影響は?」という質問に、「影響がある」と回答したのは77%。「ファストフードなどの持ち帰り可能な飲食を店内で食べるのをためらうようになった」や「一人暮らしには厳しい」と増税が生活に及ぼす影響について切実な声が上がった。

必要性問う声も

 増税の理由を知っているか尋ねる質問では、63%が「知っている」と答えた。一方で、増税分の使い道を知っているか問うと、「知っている」が46%という結果に。自由記述欄には「増税自体が悪いことだとは思わない。だが、(増税分が)どのように使われるのかは分かるように説明してほしい」と現在の説明では不十分だとする意見が出た。「増税は必要だと思いますか?」では、52%が「必要」、48%が「不必要」と拮抗(きっこう)した結果になった。「生活に影響を及ぼすが、将来のために必要」「少子高齢化が進む中、増税は仕方ない」と増税をやむを得ないこととして捉える意見が多い中、「マニフェスト通りに使わないなら、増税しないでほしい。消費税ではなく法人税を上げるべき」と代替案を出し反対する回答も見られた。

「QRコード」最多

 増税を機に始まったキャッシュレス決済に対するポイント還元に関しては、77%が「知っている」と答えた。「知っている」と答えた人に、ポイント還元制度をきっかけに始めたキャッシュレス決済サービスを尋ねたところ、PayPay(ペイペイ)などを含むQRコードが24%とトップに。クレジットカードなど他のサービスと大きく差がついた。自由記述欄には「ポイント還元制度は非常にうれしい。うまくサービスを使って増税前より得している」と好意的に捉える人がいる中、「自分が買ったものの記録がビッグデータに残るのが不気味であまり使いたくない」と否定的な意見もあった。

増税分は社会保障に 政府の対応策に課題も

 増税分は社会保障費に充てられる。政府は、待機児童解消や幼保無償化、高等教育にかかる授業料と入学金の免除や減額、給付型奨学金の拡充、低所得の高齢者や年金受給者への支援などに使うとしている。政府は社会保障の財源を保険料で賄うことを基本方針としているが、急速に高齢化が進み、保険料を納める世代が減少しつつある。そこで働く世代の負担を減らすために税金や国債を投じている。政府は、これまで通り国債を発行し続けると、将来的に社会保障制度の維持が難しくなるという見解を示している。国債発行額を抑え、社会保障制度を次世代に引き継ぐ財源を確保するため、増税に踏み切った。防災や減災のためのインフラ整備にも増税分を投資する見込みだ。

 増税に伴い、家計が苦しくなることが予想される。そこで飲食料品の一部と、週2回以上発行され、定期購読契約している新聞には軽減税率を適用。税率を8%に据え置いている。

 政府は、消費税率引き上げに伴う景気の落ち込みや生活への影響を考慮し、一時的な対応策を実施。低所得世帯や子育て世帯に対し、2020年3月まで、地元の店舗で1人当たり最大2万5千円の商品券を2万円で購入できるプレミアム付き商品券を販売している。自動車や住宅を購入する際の支援、キャッシュレス決済に対するポイント還元も進めている。

 ポイント還元制度は、経済産業省に登録した店舗でクレジットカード・デビットカード・電子マネー・スマートフォンアプリのQRコードなどを使って代金を支払うと、税込価格に対してポイントが還元される仕組み。20年6月までの間、最大で5%分還元される。キャッシュレス決済をすることで、現金で購入するより支払い金額が安くなったり、ポイントが付与されたりする。対象店舗は増えているものの、制度が複雑で分かりにくかったり、導入を見送る小売店があったりするため、国民全体への普及には課題がある。

高等教育の支援拡充へ

 政府は増税で得た財源の一部で20年4月から住民税非課税世帯とそれに準じる世帯の学生などの授業料や入学金を免除、または減額する他、給付型奨学金の対象者や給付額を拡充する。

  吉村洋文・大阪府知事は、20年度から大阪府立大、大阪市立大の入学金と授業料を実質無償化する方針を示した。条件を満たした年収590万円未満の世帯は無償、910万円未満の世帯は子供の数で段階支援する。

学生生活にも影響 大学食堂や売店も増税対応

 消費増税は大学の食堂や売店、学生生活にも影響を与えている。UNN関西学生報道連盟の九つの加盟大(京都大・大阪大・神戸大・関西大・関西学院大・同志社大・立命館大・京都女子大・神戸女学院大)の食堂と売店の価格の実態、学生寮費、授業料について調査した。

 全加盟大で、増税を理由とする寮費と授業料の値上げはない。ただし、電気料金、ガス料金、水道料金は増税分値上げされるため、一人暮らしの学生の生活費に影響を与える。

 全加盟大の食堂や売店で軽減税率を適用していて、原則、持ち帰りの飲食物は税率8%、食堂で飲食する場合は10%としている。

 全国大学生協組合に加入している京大、阪大、神戸大、関学大、同志社大、立命大の生協では、支払いに大学生協電子マネー(プリペイドカード)を使うとキャッシュレス決済に対して5%のポイント還元を受けることができる。ただし、あらかじめ一定金額を支払うことで、毎日1日の上限額まで学内の食堂や売店で飲食物を購入できる「ミールプラン」にはポイント還元は適用されない。また2018年から電子マネーを導入した神戸大では、3年生以上の学生の多くが「Tuoカード」と呼ばれるクレジットカードを使っている。全国大学生協組合に加入する大学にはTuoカードがあるが、ポイント還元申請中で、現在対象にはなっていない。

 大学独自の生協を持つ関大では、生協が運営する食堂やベーカリー、コンビニエンスストアでの飲食物の支払いにプリペイド式の「ミールカード」を使用できるが、ポイント還元の対象ではない。学内での支払いに使えるクレジットカード「KU CO−OP VISAカード」に関しては、関大生協全店舗での申請を行っているが、10月1日時点で一部店舗のみが対象となっている。

 大学生協がない神女院大の学内コンビニエンスストア、セブンイレブンはポイント還元の対象外。京女大の学内にあるファミリーマートは、購入額に対し、ポイントを2%分還元している。

学生はどう向き合うべきか 大阪大 赤井伸郎教授

— —消費増税の影響は。

 まだ分からない。一時的に消費は落ち込むかもしれないが、政府は対応策として軽減税率やプレミアム付き商品券、キャッシュレス決済に対するポイント還元などを導入している。消費税は全ての世代に課されるもので、今税率を上げることは、これまで国債を発行し続けてきた日本財政の持続可能性を高めることにつながるので、長期的に見れば効果が現れてくると思われる。(学生の皆さんは)自分たちが将来背負う借金が減ったのだと捉えてほしい。増税は悪いことではなく、若い世代の負担がこれ以上大きくならないようにし、日本の将来を明るくするものとして必要な手段だ。

— —UNNのアンケートで法人税を上げるべきという声があるが、どう思うか。

 法人税を上げると企業が海外へと進出し、税収・雇用・所得が下がる恐れがあり、全世界的に各国は法人税を引き下げる方向にある。

— —高等教育無償化や奨学金拡充は実態に見合った政策か。

 一部の学生にしか影響がない政策とも言える。経済的理由で高等教育を諦める必要はなくなるが、学生の学ぶ意欲には差がある。意欲が高い学生にきちんと行き渡り、効果が出るのかは今後の動向を見ていく必要がある。

— —学生へのメッセージは。

 増税に賛成でも反対でも、税の在り方に興味・関心を持ち、知識を付けてもらえればうれしい。その上で増税の是非や効果、影響について議論・判断してほしい。

【聞き手・田中穂乃香】

赤井伸郎(のぶお)氏 

 大阪大大学院国際公共政策研究科教授。専門分野は公共経済学、財政学、政府のガバナンス論。人口減少社会の中で政府の健全な行財政運営と豊かな社会の両立の在り方などについて研究している。