今年7月から受動喫煙対策を強化した改正健康増進法の一部が大学で施行された。大学のキャンパスでは改正法がどのように影響を及ぼすのか、また現状どのような対応があるのか取材した。【伊藤翔和・川村仁乃・小松霞・中村柚結】

全面禁煙と分煙容認 取り組み分かれる大学

全面禁煙と分煙容認どちらの対応を取っているか

 関西の大学148校を対象に「大学の禁煙状況に関するアンケート」を実施(5月29日〜6月7日)。44校から回答を得た。 敷地内全面禁煙を実施する大学が18校、分煙体制を取る大学は26校で、分煙体制の方が多かった。

禁煙の流れ加速

すでに全面禁煙に踏み切った大学や、数年のうちに全面禁煙への移行を予定する大学が多くある。奈良大、花園大、神戸医療福祉大は今年4月から、奈良県立大は7月から全面禁煙を実施した。2020年内に全面禁煙に移行予定と回答した大学は5校。21年からの全面禁煙を目指す関西大は、利用率の調査結果をもとに喫煙所の段階的な削減をし、学生や教職員からも意見を聞きながら進めるとしている。回答があった医療系大学は8校。京都薬科大を除く7校がすでに全面禁煙を導入。滋賀医科大では新入生研修で喫煙による身体的・社会的影響を解説。入学早期から、将来医療人として禁煙に向き合う重要性を認識するように指導をする。

改正健康増進法で屋内に喫煙所を設けることができなくなった。梅花女子大は7月1日に屋内の喫煙所を屋外に移設。甲南大も屋内の喫煙所を閉鎖した。

分煙留まる大学

 全面禁煙にするのではなく、分煙環境をさらに整備し受動喫煙の防止に力を入れる大学がある。京都産業大では、学生の動線に近い喫煙所を撤去。個数も17カ所から14カ所に減らすほか、喫煙マナー向上の啓発活動をしている。神戸学院大では喫煙者からの要望で、雨の日でも快適に喫煙できるよう屋外喫煙所に屋根をとりつけたほか、喫煙所を増やす対応をした。 

 一度全面禁煙にするも、分煙体制に戻す大学がある。大阪青山大は2007年12月に全面禁煙を宣言したものの、分煙を求める声と隠れ喫煙による失火の危険があったため、8年余りで分煙に方針転換した。龍谷大は09年4月に全面禁煙に乗り出したが、大学周辺で喫煙する学生が増えたことで、近隣住民から苦情が相次いだ。約1年半後、当面の解決策として「卒煙支援ブース」を設置。13年から全面禁煙を実施していた立命館大は、今年7月から分煙を容認。甲南大でも同様の理由で分煙に戻した事例がある。

 全面禁煙にするのではなく、分煙環境をさらに整備し受動喫煙の防止に力を入れる大学がある。京都産業大では、学生の動線に近い喫煙所を撤去。個数も17カ所から14カ所に減らすほか、喫煙マナー向上の啓発活動をしている。神戸学院大では喫煙者からの要望で、雨の日でも快適に喫煙できるよう屋外喫煙所に屋根をとりつけたほか、喫煙所を増やす対応をした。 

大学の禁煙指導

 各大学では全面禁煙と分煙容認の対応に関わらず、学生に禁煙を促している京都産業大は、たばこを学内の店舗や自販機で販売していたが、改正健康増進法の施行に合わせて販売を停止。近畿大でも8月末に販売停止を予定している。 神戸学院大では喫煙指導員が毎日キャンパスを巡回し指導している。喫煙所に健康被害を警告するポスターを張り出したり、禁煙外来の紹介・設置やニコチンパッチの配布をしたりする大学もある。桃山大は啓発案内を記載したティッシュを配る受動喫煙防止キャンペーンを定期的に実施する。

 大学は教職員に向けた禁煙指導にも取り組む。龍谷大は禁煙外来での卒煙指導、京都産業大では産業医面接の案内をしている。「一部教員からの反対などで足並みがそろわないのが現状」と回答した大学や、「学生は禁煙だが教職員の喫煙は黙認している」大学があった。大学の全面禁煙には、学生だけでなく教職員に対する理解や指導も課題になっている。

 違反者に対する罰則を設けているか問うと、ほとんどの大学が「注意指導を行う」または「特に設けていない」と回答した。違反を繰り返す場合は懲戒処分の対象とすると答えた大学は8校あり、始末書の提出や近隣の清掃活動を一定期間課すという大学もあった。

改正法は何を変えるのか 大学に条件付きで分煙容認

立命館大の禁煙を呼び掛けるポスター

 昨年、受動喫煙について厳しい対策を求めた改正健康増進法が成立し、今年7月から大学などで改正法の一部の施行が始まった。改正によって「未成年や患者などに特に配慮」(厚生労働省)が必要としてキャンパス内の全面禁煙を罰則つきで義務付ける。改正前は努力義務に留まっていた。また、対策を怠った施設管理者に最大50万円の罰則を設けることになったものの、対策が十分と認められれば屋外で引き続き喫煙所の設置を認める。

 今回の改正では受動喫煙のリスクが高い飲食店を中心に規制が進んだ。ただ、改正法よりも規定を厳しくした東京都の受動喫煙防止条例を含め大学内の完全禁煙は義務とならなかった。

 今回の改正は来年の東京五輪・パラリンピックに向けた施策とされる。2010年に国際オリンピック委員会(IOC)と世界保健機関(WHO)が「たばこのない五輪」の方針を制定したこともあり、日本に先立って五輪を開催した各国は屋内の喫煙に対し、罰則を伴う法規制を整備してきた。

 従来、日本はポイ捨てや歩きたばこなどの取り締まりを通し屋外喫煙を規制してきた。16年から新法制定も含めての法規制が議論された結果、健康増進法の改正という形で世界的な基準に合わせることになる。

 中京大の家田重晴教授の調査によると、4年制大学の全面禁煙率は今年4月時点で約26%で10年前の約2倍に増えた。また、17年実施の厚生労働省による調査では、20代の喫煙率は男性が約27%、女性が約6%で年々減少する傾向にある。日常からたばこの紫煙が見られなくなる中、大学も世間と無関係ではいられないのが現状だ。

追手門大 全面禁煙の徹底へ「喫煙者は入学お断り」

安威キャンパスの喫煙所

 各大学が対応を模索する中、いち早く全面禁煙に踏み切った大学がある。追手門学院大だ。本年度から入学生に対し禁煙誓約書の提出を義務付けた。

 広く世界に学生を輩出したいとする同大は、昨年から学長主導のもと「喫煙者、入学お断り」をスローガンに掲げる。敷地内の全面禁煙に取り組むほか、通学路や周辺でも禁煙を徹底。大学周辺を職員が交代で巡回する。違反者への注意や指導を継続することで、喫煙の習慣化を防ぐ狙いだ。

1年生全員が学ぶ茨木総持寺キャンパスは今年4月の開設時から全面禁煙とし、2〜4年生が学ぶ茨木安威(あい)キャンパスも来年度から全面禁煙を予定する。昨年度まで茨木安威キャンパスでは喫煙所を2カ所設けていたが、今年4月に1カ所を閉鎖し、残りの1カ所も年内に閉鎖予定。

 学内の喫煙所をなくすことによって、大学周辺での喫煙やマナーの悪化が懸念されるが、同大は「近隣住民に対し誠意を持って対応したい」としている。

同大の昨年の調査によると、学生のうち喫煙者が占める割合は約6・7%。同大は禁煙外来を紹介するといった措置を取るが、当該学生らにはさまざまな声がある。

 講義の空き時間で喫煙所を使っていた学生は「大学はブランドイメージを気にしすぎなのでは」といぶかしげに答えた。別の学生は「安威キャンパスの裏手にある隠れ喫煙所にみんな行くだけだから心配していない」という。また茨木総持寺キャンパスで講義を受けている学生は「巡回員が通学路沿いの喫煙所に来て『追手門生か』と聞いて回ってたばこをしまわせていたのは何か違う気がする」と話す。

立命大 分煙容認へ 全面禁煙の方向は変わらず

立命館大の卒煙支援エリア

卒煙支援エリアの移設を知らせる張り紙

 健康増進法の改正により各大学が受動喫煙の対策を強化する中、立命館大は「キャンパス内全面禁煙」としていた方針を今年7月から「分煙容認」へと変更した。大学側は今回の方針転換を、受動喫煙対策を優先した暫定的なものとする。

 立命大は2013年から敷地内を全面禁煙としたが、直後から建物の影での隠れ喫煙や大学周辺での路上喫煙、吸い殻のポイ捨てが発生した。放置すれば近隣へ迷惑がかかり、火災の恐れもある。同大は当面の措置として喫煙者への指導スペースに「火災防止のための管理エリア」を設置したが、実際には喫煙所に近しい状態だったという。「火災防止のための管理エリア」は18年に「卒煙支援エリア」へと改名した。

 7月からは「卒煙支援エリア」を「特定屋外喫煙場所」と改め、人通りが少ない場所への移設や空調ダクトの設置を進める。同大は「健康増進法を機に受動喫煙対策を徹底するため」と説明する。学内では「卒煙支援エリア」の撤去を含めた議論があったが、望まない喫煙対策や火災防止の観点から設備を残すことになった。立命大の調査によると学生の喫煙率は近年4%前後で推移している。立命大は20年までに喫煙率を2%まで減らし、3年連続喫煙率2%の目標を達成すれば「卒煙支援エリア」は撤去するとの方針を掲げるが、喫煙率が簡単には減らないのが現状だ。

 学生への卒煙教育では春と秋にスモークフリーキャンペーンを開催。期間中は健康相談ブースで血管年齢を測定できる。また年間を通して学生が利用可能な禁煙外来を学内に設けているが、夏休み期間になると受診者が減るという。

 敷地内全面禁煙化にあたっては、学生同様に学内施設を利用する教職員の禁煙を今年7月から規定する。卒煙支援エリアで喫煙していた学生は「上役の教職員にも喫煙者がいるのにすんなりと規則が順守されるか疑問に思う」と話した。