近隣の7店舗で写真展

「百年の光跡 写真展 京大吉田寮」が2月18日〜3月3日、吉田東通り(京都市左京区)の7店舗で開かれた。映画『自治と青春—京都大学吉田寮(仮)』製作委員会と吉田寮記録プロジェクトが主催。戦前と現在の吉田寮に関する写真、約40点を展示した。【田中穂乃香、写真も】


戦後の写真は平林克己さん、戦前写真は冨岡勝さん
(キッチンハウスキャラバンで)

 写真展は、吉田寮を知らない人に興味を持ってもらうとともに、プロの写真家がカメラに収めた自然体の寮生を発信するため企画された。写真展は1〜2月にかけて東京、横浜などを巡回。現状を知ってもらおうと、近隣住民や寮支援者が連携し、京都大生が多く利用する地元の飲食店や銭湯で写真を展示した。

 吉田寮には1913年に建設された現棟と2015年に建設された新棟がある。17年に大学が「吉田寮生の安全確保についての基本方針」で寮生に退去を通告する中、寮の魅力を記録に残すため、吉田寮記録プロジェクトが発足。写真家の平林克己さんが建物の外観や内部、寮生の日常生活を撮影してきた。

 展示されたのは平林さんが撮影した写真と元寮生の冨岡勝さんが提供した戦前の写真だ。写真全てに寮生や元寮生が考えたキャプションが添えられ、寮を詳しく知らない人にも雰囲気が伝わるよう工夫されている。

■写真展に協力した店主の思い

キッチンハウスキャラバン 上地秀夫さん

 40年近く店を営んできた。親しい寮生もいる。以前寮生から「建物を壊しても何らかの形で吉田寮の姿を残したい」と相談を受けた。写真展に参加することで協力したいと思った。吉田寮には昔の自由な雰囲気の京大の姿が残っていると感じる。退寮や取り壊しをめぐる問題は約20年続いていて、簡単に答えが出る問題ではない。今後も吉田寮を発信する取り組みがあれば協力したい。

中華そば みみお 佐藤訪米さん 佐藤友美子さん

 地域の夏祭りで寮生と関わった。吉田寮の問題は寮生と大学の間だけでなく、地域住民にとっても大きな問題。現在、大学側は寮生にも地域住民にも十分な説明なく寮の建物や自治をつぶそうとしていると思う。立て看板の撤去に関しても、学生や地域住民との対話姿勢がなかった。十分な説明のないまま街の風景が変わっていくことに疑問を感じる。寮の自然な姿を捉えた写真を見てもらい、イメージが良くなればと思う。

■自治の在り方 映画で問う

 写真展を企画・提案した藤川佳三さんは、映画『自治と青春—京都大学吉田寮(仮)』の監督を務める。17年12月に京大が出した一方的な退去通告を知り、18年5月から記録映画の製作を始めた。撮影を通し、寮生の自治のプロセスは思った以上に丁寧なことに気付いた。寮内でのさまざまな問題を、何度も時間をかけて話し合い、全ての寮生にとって納得がいく答えを探し続ける姿勢に「自分たちのことは自分たちで決める」といった自治本来の在り方を見たという。

 藤川さんは「吉田寮には少数意見も共有する仕組みがあって、一人一人が意見を言いやすい環境。吉田寮の自治の在り方を発信することで、今の日本人の受け身姿勢に対して問題提起したい」と話す。

 映画は19年度中に完成予定。

寮生 条件付きで退去発表 大学側 交渉に応じず

 京都大は2月12日、「吉田寮の今後のあり方について」(以下、「今後のあり方」)と「現在吉田寮に居住する者へ」を発表した。

 「今後のあり方」で京大は、現棟に居住する寮生に対し、直ちに退去することを求めた。これまで吉田寮自治会が説明を求めてきた、退去後の現棟の使用方法については、建築物としての歴史的経緯に配慮した措置を講じた上で学生寄宿舎として供用する方針を示した。また退去後は建物と周辺への立ち入りを禁止。耐震性に問題のない新棟に関しては、寮生名簿に記載されているなどの条件を満たす学生のみを対象に使用を認めた。

 吉田寮をめぐっては、2017年12月、「吉田寮生の安全確保についての基本方針」で大学側が現棟と新棟に住む全ての寮生に18年9月末までの退去を求めた。現棟からの退去理由については、築100年を超え、耐震性に問題があるからとした。大学によると、寮には退去期限以降も60人以上の学生が住み続けている。現状を受け、18年12月に大学が京都地裁に現棟に対する占有移転禁止の仮処分の命令申し立てを行い、今年1月に執行された。

 「今後のあり方」「現在吉田寮に居住する者へ」を受け、自治会は2月20日に「吉田寮の未来のための私たちの提案」「吉田寮自治会からの意見表明と要求」を発表。19年春季の現棟への入寮募集はしないことを表明した。安全性が担保されている食堂の継続使用や現棟の清掃や点検といった従来の維持管理を自治会が行うことを条件として5月末をめどに現棟での居住を取りやめることを決めた。さらに大学側に対して、現棟の老朽化対策に関する建設的な対話の再開を求めた。

 自治会が提示した退去条件に対し、大学側は3月13日、受け入れられないと発表。対話の再開については「責任ある自治に基づき共同生活の運営を行う意思のある寮生と話し合いを行う」とした。【田中穂乃香】