セリシンだけを吐く「Tg蚕」
    (撮影=川村仁乃)

 京都工芸繊維大と京丹後市が、人工飼料を使った周年養蚕の方法を確立した。同方法には多くの研究所や企業が取り組んでいるが、一度に20万頭の大量飼育成功は初。2016年から新シルク産業創造館(同市)で研究を進めてきた。

 伝統的な養蚕は桑の葉がある5〜10月がシーズン。ふ化してから熟蚕(食桑を終えて糸を吐き出す準備ができた蚕)までの約25日間、毎日2回以上桑の葉を与える。一方、桑葉粉末や脱脂大豆、ビタミン類が入った人工飼料を使うと、ふ化から熟蚕までの給餌は5回で済む。桑の葉がない季節の養蚕が可能で、安定的、効率的に生糸が生産できる。

 同方法による生糸は従来のものに比べて白いことが特徴で、市内の業者が織りや染色を試し、適した使い道を探る。多くを中国からの輸入に頼っている生糸の純国産ブランド化と、絹織物産地となっている同市の産業を活気付けることを目指す。将来は施設を民間企業に貸して事業化する方針だが、施設運営費や飼料代コスト削減が課題。

■遺伝子組み換え 広がる蚕の可能性

 事業を進めてきた京都工芸繊維大の森肇教授(応用生物学系)は「遺伝子組み換えをした蚕で、医療用品や化粧品、実験材料などに使える特殊な糸を作ろうとしている」と話す。繭はタンパク質のフィブロイン約75%とセリシン約25%から成っている。遺伝子組み換えによりセリシンだけを吐く「Tgカイコ」を作製した。セリシンは高い保湿力があり、Tgカイコの繭はゲルやスポンジなどに容易に加工できる。【川村仁乃】