■政治参画意識、変化は?

 前回は学生を対象にアンケートを実施し、政治への関心度や参画意識の現状を示した。 国防問題について議論する授業や投票率向上を目指す学生NPOも紹介したが、 戦後から現在に至るまで、学生と政治を取り巻く環境はどのように変わってきたのだろうか。政治に関わりの深い3人に話を聞き、その変遷を探った。【堀江由香・写真も】

■イベント志向の若者

 神戸大法学研究科の品田裕教授は政治に関して、今の若い世代の特徴を「イベント志向」と指摘する。
 戦後から1970年代は、発展途上にあった日本社会でさまざまな矛盾が生じ、若者の憤りはストレートに投票や行動に表れていた。ところが80年代以降、社会が安定し始めると次第に投票率は低下。品田教授によると、若者が一方的に政治から切り離されたのではなく、景気が良くなったことで若者の関心事も「社会」から「自分」へ移ったのだという。
 投票率は90年代に入って大きく下がり、現在も一向に回復していない。 相対的に見て若年層の投票率が低い傾向は近年続いているが、90年代以降は特にその傾向を強めている。
 しかし、民主党に政権が移った2009年や18歳選挙権が導入された16年の選挙では投票率が一時的に上昇した。品田教授は「20~35歳は就職や結婚など、次々に関心を持つべき事柄が変わるため、政治に関心を向ける優先度は自然と低くなる。ただ今の若い世代は、物事がイベント化されないと関心を持ちにくい側面もあるのでは」と考えを述べた。
 若年層に政治参画を訴える団体について「数は増えたが散発的で、今のところ量的効果が得られていない」とした。その上で「単発のイベントで終わらさないよう、今後うまくコーディネートされれば」と期待を寄せた。
 若い世代のこれからの政治参画手段として、品田教授は会員制交流サイト(SNS)の有効性を重視している。今後ストライキが増える可能性を示唆し「SNSは投票に次ぐ新たな政治参画手段になるかもしれない。 SNSの世界では収まらなくなった時にデモやストライキをすれば良い」と話した。

■声を上げられる場を

 安全保障関連法案を巡る関西の運動について論考がある福田耕さん(30)は、反対を訴えた学生らの動きを知る一人だ。
 「大阪都」構想や安保法案に反対の意を示そうと、15年2月にSADL(民主主義と生活を守る有志)、同年5月にSEALDsKANSAI(自由と民主主義のための関西学生緊急行動)という学生団体が始動。音響機器を使ったデモや、人を集めてスピーチする街頭宣伝は、安保法案反対運動のスタイルを築いた。
 安保法は同年9月に成立したが、反対世論の勢力などによって、「夏までに必ず実現」という首相が望んだスケジュール通りには運ばなかった。福田さんは「一人一人が声を上げているように見える彼らのデモには多様な人が集まった。参加した人々と政治や社会の距離が縮まり、他の社会活動や選挙ボランティアなどへの参加につながった」と話す。
 福田さんは立命大の出身。当時は学生自治会の取り組みで、「学費が高い」「食堂が狭い」などの要望を、学生自ら大学や国に訴える場があったという。「若者は自分たちの声が反映されていると目に見えるほうが関心を持ちやすい。だが今はそもそも声を上げられる場が少ない。議員が定期的に大学を視察したり、学生の要望を聞く機会を設けたりしてもいいのでは」と話した。

■真の対立構造知って

 SASPL(特定秘密保護法に反対する学生有志の会)とSEALDsKANSAIの一員として活動した大野至さん(関学大・博士前期)は高校時代「投票さえ行けば自分の務めは果たせる」と考えていた。
 考えが変わったきっかけは東日本大震災。福島第一原発事故に危機感を持ち、原発反対を訴えるデモを客観的に見るだけでなく、自らが声を上げる必要性を感じたという。
 13年には特定秘密保護法が成立。国際政治学を学んでいた大野さんは、将来の自分の研究が特定秘密に触れることを恐れ、SASPLを立ち上げた。
 両グループでデモを経験して、若者が少し動けばメディアが取り上げてくれることを実感したという。実際、SEALDsKANSAIが主導し15年9月に行った最大規模のデモは、上空からの撮影が入るなどメディアの注目が大きかった。
 一連の活動にはメディアをうまく利用したとする一方、政治の報道姿勢には疑問が残るという。「社としてどう思うかを明示するときに、『右左』ではなく『権力とそれ以外』の対立構造を念頭に置いてほしい。一つの発言や法律を掘り下げて報道するべきでは」と主張した。