【1月号掲載】連載 現代学生貢献事情・下
■対価はお金?やりがい?
多くのボランティアが無償で行われる中、ボランティアの内容によっては金銭的な対価を支払うべきではないかと議論が起こることもある。貢献に対して在るべき対価とは何か、考える。

■五輪通訳に学生も関心
2月に迫った平昌(ピョンチャン、韓国)オリンピック。2020年には東京五輪も控えている。こうした国際的なスポーツ大会に向けて、七つの外国語大学(関西外国語大、京都外国語大、神戸市外国語大、神田外語大、東京外国語大、長崎外国語大、名古屋外国語大)でつくる全国外大連合は、セミナーを開くなど通訳ボランティアの育成に取り組んでいる。
17年9月には5回目のセミナーが開かれ、356人が受講。語学・通訳能力の他、比較文化論やスポーツ文化、観光知識など幅広く講義を行った。
講座を修了すると、連合が設置した「通訳ボランティア人材バンク」に登録することができ、「国際的なスポーツイベントや会議などでの活躍が期待される」(神田外語大ウェブサイト)。
連合作成のパンフレットでは、ボランティアへの参加で学生の学習面、キャリア面でメリットがあるとアピール。セミナー(第5回)参加者へのアンケートでも、参加の動機を「自分自身の成長につながるから」と答えた学生が34・8%と最も多い。セミナーに満足したかとの問いにも「そう思う」「まあそう思う」が計9割超で、連合の取り組みと学生のニーズが一致しているようだ。
■「正当な報酬、必要では」
一方東京五輪の通訳ボランティア募集には批判もある。
京都大大学院の西山教行教授(言語政策)は、外国語を学ぶ学生にとって外国人をもてなすことが日頃の勉強の成果を発揮できる良い機会だとした上で、東京五輪のボランティア募集を次のように批判する。
「道案内程度の通訳ならまだしも、五輪の組織運営や競技に関わるものまで無償にすることには違和感がある」
東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会が公開している資料によると、東京五輪では有給の通訳のほかに、無給の大会ボランティアとして「言語サービス」を想定。海外要人のコミュニケーションの手助けも含まれており、高度な外国語能力や専門性が必要になる場面もあるとみられる。
西山教授は「業務を学生ボランティアに頼るのであれば、正当な報酬を与えるべきではないか」と指摘する。
外大連合のセミナーは、東京大会組織委も協力団体に名を連ねる。取材班は批判への見解をセミナーの開催場所となった神田外語大や、連合加盟の関西3大学に求めたが「ホームページに掲載されている内容が全て」(神田外語大)などの回答にとどまっている。
■使命感必要な場面も
では全ての社会貢献に対して金銭的な対価を払えばうまくいくのか、と言えばそう単純な話でもないようだ。
前回取り上げた起業という形での社会貢献。「『金持ち・有名になりたい』だけでは、(起業は)もたない。最初はそうだとしても、途中から変わっていく」と話すのは、学生や教員の起業を数多く知る大阪大産学共創本部の松行輝昌特任准教授だ。
松行特任准教授は起業の動機として、①社会にインパクトを与えられることがしたい②貧困などの問題を解決したい――などがあると指摘。「(起業には)正義感や社会を変えたいという使命感も必要」と話す。
■ゆとり減る今こそ 学生の貢献再考を(取材後記)
17年1月、神戸でボランティア活動に取り組む女性と話していた時「とにかく人手が足りない。これからどんどん減っていくかも」と困っていた。
従来ボランティアの担い手は、時間的余裕があるとされる高齢者、主婦、学生が主に占めてきたという。
しかし定年後も働き続ける人が増え、女性の社会進出も進み、ボランティアに携わる層が年々減っている。「それに加えて最近の学生は忙しいし」。社会のゆとりが少なくなってきている。
一方本紙で取り上げるニュースの中には、学生がさまざまな形で社会貢献に携わる例も多い。ボランティアサークルの活躍はもちろん、ゼミ活動での産学連携、さらには学生が会社や団体を自ら立ち上げることもある。社会の多様化で、貢献のアプローチも多種多様になるのは自然の流れだ。共通するのは参加者がやりがいを感じられなければ継続した活動にはなりづらいということだろう。
立ち止まって考えるべきは、社会貢献ややりがいの名の下に、本来職業として成立すべき業務までボランティア頼りになっていないかということだ。16年のテレビドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」でも「やりがい搾取」という言葉が登場し話題になった。
社会の余裕が乏しい中で、学生に社会貢献の役割を求める視線はより多く注がれている。だからこそ、学生の在るべき社会貢献への関わり方を、いま一度考え直す時が来ているのではないだろうか。
◇瀧本善斗、前山幸一、山中秀祐が担当しました。連載は今回で終わります。
コメントを残す