vol.299 京都の駅彩る 学生アート
京都市営地下鉄の各駅で「KYOTO駅ナカアートプロジェクト2016」が実施されている。学生が制作したアート作品を駅構内に設置することで、京都の地下鉄のイメージアップと活性化を図るのが目的だ。5回目を迎えた今回のテーマは「ディスカバー・地域」。3月23日から5月31日まで、各大学の作品が烏丸線・東西線の各駅で展示されている。
京都女子大では家政学部生活造形学科江口ゼミの4年生13人がプロジェクトに参加し、烏丸線五条駅の柱をデザインアートで彩った。今年は、市営バス車両のデザインも制作。生誕300年を迎えた伊藤若冲の作品「樹花鳥獣図屏風」(静岡県立美術館)をモチーフに仕上げた。
五条駅に描かれたのは個性あふれる招き猫たち。制作に携わった村田菜生さんは「五条駅はビジネスや観光の通過点。駅の利用者に幸せを招きたい」と思いを込める。やりたいことがそれぞれ違うため意見がまとまらず、テーマや作品の方向性を決めるのに時間がかかるなど、大人数ならではの苦労が制作の背景にある。村田さんは「公共施設に作品を飾るのは初めての経験で、完成した瞬間の達成感がすごかった」と振り返る。五条駅の招き猫アートは5月31日まで展示される予定だ。
京都造形芸術大情報デザイン学科3年の学生らは、東西線東山駅を担当。「彫紙(ちょうし)」という、画用紙を30枚以上重ね、独特の奥行きを演出した作品を、メンバー6人がそれぞれ一つずつ制作した。金閣寺や哲学の道、北野天満宮など京都の風景を基にした。
テーマ「ディスカバー・地域」とメンバーらの「京都といえば水」という思い付きから、「京都を水中に沈めることによって、京都の新たな魅力を再発見する」というコンセプトが生まれた。忘れられつつある昔ながらの京都の街並みを水中に沈めることで、消えゆく京都の良さを忘れないでほしいという思いの他、水中という新たな視点から京都を見ることで、見飽きた世界にも新しい魅力があるという思いも重ねている。「駅が潜水艦、作品の枠が丸窓で、そこから彫紙で表現した京都の町並みを見る、というイメージ」。作品内で魚が泳いでいるなどのユーモアも。
苦労したのはたくさんの紙を切って重ねる過程だ。厚い画用紙を構想通りに切り、30枚ほど重ねていく地道な作業に取り組んだ。「金閣寺の細かい窓などを切るのは、本当に大変だった。カッターがすぐに使い物にならなくなった」。他の課題作品を制作する合間を縫いながら、1カ月以上かけた。「こんなに長い時間をかけて一つの作品に取り組んだのは初めて」と携わった坂口美香さんらは話す。
ただ、「考えていたものと、できたものが全然違った」と反省する。大きな作品を制作したつもりだったが、駅の壁は高く広い。実際に駅に置くと、どうしても小さく見えてしまった。「作品をどう見せるかに慣れていなかった。良い経験になった」
「ぜひ細かいところも見ていってほしい」と坂口さんらは駅の利用者に向けて話す。
【参加大学と作品の設置駅】
京都教育大——烏丸線・くいな橋駅
京都工芸繊維大——烏丸線・松ヶ崎駅
京都嵯峨芸術大——東西線・太秦天神川駅
京都女子大——烏丸線・五条駅
京都市立芸術大——東西線・二条城前駅
京都精華大——烏丸線・国際会館駅
京都造形芸術大——東西線・東山駅
京都橘大——東西線・椥辻駅
京都府立大——烏丸線・北大路駅
コメントを残す