文系学部のある国立大学60校のうち、26校が2016年度以降文系学部の統廃合や規模縮小を計画していると8月24日に報じられた。「短期的な成果や社会に役立つ人材育成を求めている」として、各方面から反対の声が挙がっている。

 発端は、文部科学省が6月8日、全国の国立大学に人文・社会科学系学部の統廃合や規模縮小などを要請する通知を示したことだ。同時に、全86の国立大に既存の学部や大学院を見直すよう要請した。教育・人文系の廃止や社会的要請の高い分野への転換が狙いだ。条件を満たした国立大には、運営費が重点的に配分されることも発表された。

 「100年の学問体系を崩すものだ。海外の大学には文学部があるのに、日本の国立大学にないのは、国際整合性がない」と話すのは、関西大学社会安全学部の小澤守教授。「グローバル人材とは、外国語を話せる人ではなく、諸外国や日本の社会や文化、歴史を理解し、踏まえた上でコミュニケーションを取ることができる人のことだ」と語った。「人文・社会科学系学部や大学院の教育は、実践に入ってから生かされるもの。在学生は引き出しを増やす段階であり、今の文科省が求めるような即戦力を養成する段階ではない」

 一方、京都大学大学院文学研究科の川添信介研究科長は、文科省の意図と一般の認識に隔たりがあることを指摘する。文科省の大学改革の対象は、国立大学に限って人文・社会科学系学部の教育を見直しを求めるもので、「今回の通知は、人文・社会科学系の学問を全て廃止しようとするものではない」。川添教授は京都大文学部の教育体制に課題意識を持っているという。「学士を取って卒業する人がもっと伸びるような教育のあり方が求められている」と話した。京大文学研究科は研究者を育てることがミッションの一つで、今の学生は特定の分野で専門的な勉強をすると想定されている。しかし現在、京都大文学部から修士課程に進む学生は学部生全体の半分だという。国立大で人文・社会科学部の規模が縮小すると、人文・社会科学部の盛んな私立大学にとっては学生獲得のチャンスとも捉えられる。しかし、川添教授は「国立大学が人文・社会科学部を統廃合や規模縮小した場合、私立大の学費を十分払えない若者が学べないという課題もある」と話した。