【特集】今の家に満足?それとも不満足? 大学生の住まい事情
「住」は大学生活において欠かせない要素だ。大学進学と共に、住まい選びの自由度は格段に上がる。その分、現在の家に不便さを感じ、引っ越しを考える学生もいるだろう。充実した大学生活を送るため、満足できる住まいとはどのようなものか。大学生の多様な住まい事情を探る。
理想の住まいは「下宿」 通学距離 重視か
UNN関西学生報道連盟は5月19日から6月12日まで、関西の大学に通う大学生を対象に「大学生の住まい事情」と題したアンケートを行い、203人から回答を得た。
アンケート結果によると、「現在住んでいる家の様式」では「実家」が半数以上を占める結果に。次いで「下宿」、「寮」と続き、「シェアハウス」と回答した学生も1人いた。また、「あなたの大学生活における理想の家の様式」では「下宿」と「実家」の順位が入れ替わり、「シェアハウス」を選んだ学生が増えた。
実家生以外を対象とした「部屋を選ぶ際に重視した点(複数回答可)」では「学校からの距離」、「ユニットバスかどうか」、「家賃」が上位にランクイン。「大学入学後、引っ越しを考えたことはありますか」という質問には「いいえ」と答えた人が76・9%、「はい」と答えた人が23・1%だった。「はい」と答えた人の意見として「寮での生活が不便」や「1限への出席がつらい」、「家賃が高い」といった幅広い回答が挙がった。
回答者全員を対象とした「大学生になってから家や隣人に関するトラブルに遭遇したことはあるか」という質問に「はい」と答えたのは15人。特に「騒音」に関しては10人と最多だった。騒音問題に関して、京都府立大環境デザイン学科の松原斎樹教授は「お互いに親しくなる機会を作ることが重要。配慮して付き合いたいと思える人間関係を作ることが、騒音問題を解決する鍵だ」と近所付き合いの重要さを訴えた。
トラブルや現在の住まいと向き合い、解決策を講じることが、理想の住まいへとつながる。
関西家事情コレクション
「安心」と「交流」 自分で選ぶ住まい
神戸港のすぐそば、六甲アイランドの中央にある神戸女子学生会館(東灘区)。19階建て全770戸、積水ハウスグループが管理・運営する女子学生専用マンションだ。
特徴は、来訪者受付を全てフロントが行う防犯システムとカフェレストラン。月14回分の朝・夕食が基本料金に含まれている。初めて一人暮らしをする女子学生も安心の強固なセキュリティだが、午前1時門限、当日の外泊可など自由度は高い。5月末時点での入居者およそ730人のうち、神戸大の学生が100人以上と最多。ポートアイランド内の大学や神戸大などへは、無料通学送迎バスが運行されている。館長の矢野隆信さんは「規則で縛るのではなく入居者がより快適に過ごせるようサポートしていきたい」と話す。
関西学院大の女子寮「清風寮」は施設の老朽化による建て替えを機に、ルームシェア型の寮となった。新清風寮では留学生も募集し、日本人学生と共に生活している。
「新たな清風寮の魅力は留学生を交えてのルームシェアができること」と話すのは寮長の丸山敦子さん(関学・3年)。「ユニット」と呼ばれる各部屋には、5つの個室スペースや共用のキッチンなどがあり、原則日本人学生4人と留学生1人がグループで生活を送る。はじめは留学生とのコミュニケーションの取り方に苦労した寮生たち。徐々に会話も増え、今では共同生活を楽しんでいるという。ある清風寮生は、「言語の壁もあるが、お互い協力し合って生活できる。留学生に母国のことや言語を教えてもらえる」と話した。

「通学」「家賃」「制限」 悩む大学生の実情
今春、立命館大は大阪府茨木市に大阪いばらきキャンパス(以下、OIC)を新設した。しかし周辺に学生向けマンションが多くないこともあり、高槻駅や千里丘駅などのJR沿線の駅の近くに住む学生もいる。立命館大総務部OIC地域連携課の大滝夏美さんは「今年はOIC開設初年度。マンション建設を様子見する業者もいると聞いている」と話す。大学としても、国際教育寮を設置する以外に動きはないようだ。
同志社大京田辺校地周辺には学生寮がない。京田辺校地付近の学生マンションは家賃3万円前後。一方、今出川校地付近にある学生寮の家賃は1万600円から1万7700円だ。家賃を考慮して今出川校地近くの寮から京田辺校地に通う学生は「電車までの距離と時間がつらい」と学生寮の設置を訴える。
4つの寮を有する京都女子大。寮生には厳しい規則が課され、途中退寮した学生は「脱獄者」と呼ばれる。ある小松寮「脱獄者」は「髪と体を洗う場所が別だった」と振り返る。生活面の窮屈さに「脱獄」を考える寮生は少なくないが、現役寮生の1人は「先輩、後輩とのつながりもでき、規則正しい生活を送れる」とも語り、「制限」と「魅力」の間で揺れているようだ。
京女生プロデュース! デザイナーズマンション
学生の提案を受け、おしゃれに生まれ変わった団地住戸が反響を呼んでいる。京都女子大家政学部生活造形学科とUR都市機構が共同で実施したリノベーションプロジェクト。狙いは、学生の自由で個性豊かなアイデアを用いた、築30年以上の古い団地住戸の改築だ。
「学生のアイデアは繊細で斬新で、かわいい」とUR都市機構の団地マネージャー、関真司さんは話す。洗面台や取っ手など、女子学生ならではの細部に渡るこだわりが評判だという。リノベーション住戸の一つ「無限のハコ」では部屋を細かく区切っていた壁を取り払い、開放的な空間を演出。ライフスタイルに合わせて自由に部屋のレイアウトを決められるのが魅力だ。
2013年度施工の8作品のうち、公開された7住戸入居にあたっての当初の平均倍率は3.4倍。反響を受け、今年も新たに設計コンペとリノベーションを行う予定だ。次はどのようなアイデアが、古い団地住戸に新たな息を吹き込むのだろうか。
関西大 無料・期間限定 一人暮らし体験
家が大学から遠い学生や親元を離れたい学生の多くが考えるのが、一人暮らしだ。しかし生活面や経済面での不安から、なかなか一歩を踏み出せない学生もいるのではないか。そんな学生へ向けて、関西大学生活協同組合一人暮らしサポート事業部では、期間限定で一人暮らしを無料体験できるサービスを実施している。
一人暮らし体験を始めたのは2011年7月のこと。学生からの要望によるものだった。定員は4人で期間は1人一週間。年に一度だけ行い、 入居予定の一カ月前から体験希望者を募集する。物件は関大生協が契約している不動産屋の空き物件を使用。すべて大学まで徒歩10分圏内で、生活に必要な備品は事前に用意される。光熱費などの公共料金もかからない。また、期間中に最低2回は自炊をする、家計簿をつける、などのノルマがあり、実際に一人暮らしをした時に規則正しい生活を送れるかを判断する良い機会となる。
体験を希望する学生は1年生が多い。しかし中には、就職が決まった4年生が一人暮らしへ向けて心の準備のために利用することも。関大生協の室山和彦さんは「一人暮らし体験を通して自信を付けてほしい」と語った。
編集後記
キャンパスの周辺地域から通う人や地方出身者など、さまざまな出身地の学生が入り混じる大学では、学生にも多種多様な住宅事情が見られる。
「実家」住まいの学生は安心感のある親元で学生生活を送ることができ、地元の友達との交流もしやすい。しかし、家族間のルールなどの制限が時に自由な大学生活の足かせにもなる。
一方、故郷を離れてキャンパスライフを送る学生にはさまざまな選択肢がある。制限が少なく比較的自由な「下宿」、規則正しい生活を送ることのできる「寮」、留学生をはじめとする交友関係の幅が広がる「シェアハウス」……。もちろん「実家」同様、それぞれが良い面ばかりではなく悪い面も持っているということは、アンケート結果からも明らかだ。
現在の家は、果たして自分が思い描く理想の大学生活を送ることができる環境なのか。一度考えてみるのもいいかもしれない。
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