経団連の指針により後ろ倒しとなった就職活動も、3月に解禁。多くの学生が経験する就活だが、学歴や地域、性別などから生じる格差が存在する。就活における格差の現状や解決への取り組みを探った。

状況改善 課題残る

◆学歴 学生の評価基準に

 今でも学生を評価するための1つの判断基準として「学歴」を用いる企業は多いという。新卒逆求人サイト「OfferBox(オファーボックス)」を運営する株式会社i‐plugの田中伸明さんは、学歴が判断基準として用いられるのは、現在の就活の形態と企業の求める人材像が要因だと説明する。

 「就職ナビサイト」が主流となっている中、1社あたり数千人の学生がエントリーをする。しかし実際に企業が採用する人数はわずか。全員を選考対象とするわけにもいかず、ある程度人数を絞り込む必要がある。絞り込む切り口として、学歴やSPIが用いられるという。学歴やSPIのような定量化された基準が「切りやすい」からだ。

 また、企業が求めるのは投資対効果の高い人材。既存事業だけでは存続が困難な中、新規事業の開拓や海外進出を行う企業が多く、学生の成長性や理解力が重視される。基礎学力(定性、定量での理解力)が投資対効果の高さにつながると考えられるため、学力レベルを表す偏差値が判断基準の1つとして用いられるという。

 現状に対して田中さんは、学歴に代わる判断基準の必要性を強調する。「大学名だけで判断できるのか」と疑問を感じ、学歴以外に目を向ける企業も増え始めている。

◆地域 機会と情報量に差

 都市部と地方部の格差として田中さんが指摘するのは、機会と情報量の差だ。関東では、他の地域よりも長期インターンやビジネスコンテストに参加できる機会が圧倒的に多い。「元気な会社も多いので、生き生きとした社会人と接する機会が多く、刺激を受けやすい」とも話す。さらに、インターンで知り合った学生らがつながり、情報が共有されていく。

 地方部の大学に通う学生は、意識していなければ就活に関する情報を得られず、機会を逃してしまいがちだ。また、都市部への交通費など、都市部の学生にはない負担がある。都市部と地方部の差はまだまだ解決されないのが現状。地方部の学生が就活をしやすい環境を、社会全体で作ることが重要だという。

◆性別 女性採用積極的に

 結婚や出産などで退職や休職する女性が多いことや体力面の違いから、女性は男性と比べて不利だと考えられがちだ。女子学生のための情報サイト「シュウクリーム」を運営する株式会社カケハシ スカイソリューションズの池田園子さんは「女性は男性と戦わなければならないと考えていないか」と問う。女性の採用に積極的な企業は多いという。「女性を積極的に採用したい会社は、採用情報のページに女性社員の写真やコメントを掲載することが多い」と池田さん。女性を必要とする会社を見極めることが重要だと話す。

「学生の力」問われる

◆就活生 課題意識行動に

 さまざまな格差の解決に向け、企業や環境だけでなく就活生自身にも変化が必要だと田中さんは指摘。今の就活のあり方を批判的に考えられる思考力を身に付けてほしいという。「(格差の解決は)学生抜きに取り組めることではない。SNSなどのツールを用いて、学生の力で変えていくこともできるのでは」。就活生が実際に就活で得た課題意識を行動に移すことへ期待を寄せる。

◆個々の力重要に 今後の就活

 格差が解決されつつある中、重要となってくるのは学生個人の力だ。関西大キャリアセンターは、就活において最も重要なのは「人間力」だと強調する。人間としての魅力や自分なりの自立した考えを持っているか、臨機応変な対応ができるか、といったことが重視されるという。

 また、個人の力を磨くためにも「先のことを考えて、今何をするべきか考えられるように」と田中さんは話す。「先がどうなるか不確実な時代。新卒で入社した大手企業がその後も存続するとは限らない。仮にそのような状況に直面しても生きていけるよう、大学時代から経験を蓄え、能力を養っていってほしい」。

「就活 新スタイル」提案

服装の悩み解決へ

【レディス】ジャケット&パンツ【メンズ】ジャケット(グレー)&パンツ(紺)

 株式会社AOKIと、大学生のライフスタイルを支援する「マイナビスチューデント」が就活生に向けて「就活 新スタイル」を提案している。就活時期の後ろ倒しにより、夏場における就活の活発化が予測される中、就活生と企業の就活時の服装への戸惑いを解決する狙いだ。

 20業種約200人の人事採用担当者を対象に実施したアンケートを基に就活に適したクールビズを提案。今回提案されたのは男女ともジャケットを着用したスタイルだ。アンケートで半袖や七分袖のワイシャツ・ブラウスが選考に影響しないと答えた業種が上着着用スタイルに比べ少数だったことを受け、夏場でも面接時の上着着用を提案する。また、ノーネクタイでは、第一印象に影響しないと回答する企業が減少したことから男性にはネクタイの着用も推奨している。

新卒就職・採用サービス「ベツルート」

出会う企業 くじと占いで

 株式会社アドヴァンテージが就活イベント「ベツルート」を9日、東京で行った。大手就活サイトへの応募から始まる既存の就職体制から離れた、新しい就活の形を提示している。

 営業、単純作業、満員電車の3つから最も「やりたくないこと」を選び、くじと占いで決まった企業の社長と焼き肉を食べながら語らう。履歴書は不要で、リクルートスーツも禁止。食事と会話を通して、社長と就活生がお互いを知る。9日は学生40名が参加し11社の社長が協賛した。

 ベツルート担当者は「就職難が叫ばれる中、中小企業やベンチャー企業は人材の確保がうまく行っていない。マッチングの目的もある」と話す。一方「ベツルートだけに頼るのは危険。数ある就活の方法の1つ」と念を押す。19日には大阪でも開催された。

編集後記

 学歴や地域から生じる格差は、オファーボックスをはじめとした新たな就活サービスによって解決されつつある。性別における格差についても、女性の積極採用は進みつつある。田中さんの言うように、自身の就活に専念するだけでなく、周囲の環境や就活のあり方などにも目を向けることで格差の解決がより進んでいくだろう。

 今後、これまでにないような就活サービスが登場するかもしれない。就活の方法が多様化していく中、企業は目的に合った方法で採用を進めていくことが予測される。学生も就活における自身の目的を明確にし、実現のために適切な就活の方法を見定めることが必要となる。

 最終的に問われるのは、学生個人の力だ。さまざまな経験をして自身を磨きつつ、目的に合った就活を行う。就活の難易度は今後、上がっていきそうだ。

用語解説
◇OfferBox
「オファー型」と呼ばれる就活サービス。登録した学生は、自身の経験やスキルを基に、動画やスライドショーも用いてプロフィールを作成できる。作成したプロフィールは、カゴメ株式会社や住友商事株式会社などの大手企業からベンチャー企業まで700社の登録企業が閲覧。OfferBox限定の選考などへのオファーが届く。

◇就職ナビサイト
個人情報を登録しておくことで、企業へのエントリーや説明会の申し込みなどを行うことができるウェブサイトのこと。

◇SPI
企業の就職試験などで行われる適性検査。仕事への適性や、言語能力、非言語能力を測る目的がある。