求められる危険意識と管理能力

 近年、大学生の自転車利用が流行の兆しを見せている。エコで健康的、ファッション性の高さも注目される自転車だが、流行の裏には問題点もつきまとう。今回は、全国でも大学生の人口比率の高い京都市を中心に調査。自転車の管理・危険の2点を取り上げ、大学生の自転車との付き合い方を分析した。

 アンケートから、多くの大学生が日常的に安価な自転車を利用し、また高級自転車を購入する学生も一定数いることが判明した。日常的に(週3日以上)自転車を利用している学生は全体の47・9%で、自転車の所有率は79・2%。所有者の80・3%が一般的なシティサイクルを利用する中、ロードバイクなどのスポーツバイクは18・4%となった。自転車1台にかける金額も、1万円から2万円が40・6%と多数だが、5万円以上が9・4%と決して低くない数値だった。

 自転車の管理面では、撤去されたことがある学生は全体の26・1%となる。1万円未満の安価な自転車に乗る学生では33・4%となる。1万円以上の自転車に乗る学生より12・3ポイント高いことから、安価な自転車に乗る学生ほど管理が不十分だと言える。さらに全体では29・2%、5万円以上の自転車に乗る学生では55・6%が過去に盗難に遭っている。高価な自転車が狙われている。

 自転車で危険だと感じる瞬間については、「見通しの悪い交差点」や「死角からスピードを出して曲がること」と、自動車や歩行者など、相手に気付かれずに接触してしまうことを危惧した意見が多い。一方で「無点灯でスマホを操作しながら運転している人」「イヤホンをつけながら走行」など、いわゆる「ながら運転」で、運転者自身の観察力低下を懸念する面もあった。

京大・阪大 シェアサイクル成功の兆し

 自転車が流行する一方、大学生の自転車の管理問題が表面化している。
京都大では、卒業生を中心に年間2000台以上確認される放置自転車を減少すべく、学内の自転車貸し出し制度「COGOO(コグー)」を昨年10月に本格導入。駐輪場10カ所・自転車100台を京大生・教職員がシェアサイクルとして無料で利用できる。一方「食堂近くでの貸し出し自転車の放置がしばしば邪魔」(京大・1年)と通行の不便を指摘する学生もいる。

 同じく学内の放置自転車減少のためCOGOOを昨年4月に実験導入した大阪大吹田キャンパス。効果の判断には正式導入後数年を要する、と阪大資産決算課の秋山健史氏は慎重な姿勢だ。しかし10月に平日1日平均利用が30回超、累計登録者が800人超となった事実からは「一定の効果が期待できる」とのこと。

同志社 大学周辺の放置自転車

 2013年のキャンパス移転にともない学生数が増加した同志社大今出川キャンパスでは、学生による周辺の商業施設での放置自転車が問題になっている。キャンパス近隣の商業施設では「午後4時から5時をピークに駐輪が増え、困っている」との声も上がる。一方、大学では具体的な対策がまだなされてなく、早急な対応が望まれる。

京都府警 盗難被害増加傾向

 京都府警によると、府内の大学生の自転車盗難被害は1806件(2014年1月から11月、以下同)で、京都府全体の報告件数の24・9%。地域別では、京大のある左京区(423件)、同志社大のある上京区(265件)が特に多い。

 盗難の主因は加害者の認識不足と京都府警は分析。「盗難は万引きや引ったくり同様、窃盗の前科がつくれっきとした犯罪」。
被害を受けた学生のうち過半数の52・4%は施錠していなかった。京都府警は二重ロックを推奨するとともに、安価な自転車に付属される壊しやすい鍵を過信すべきでないと強調した。

危険 利便性の裏に

 自転車の普及が進む中、自転車事故も問題となっている。近年は全体での事故は減少傾向にあるものの、20代の事故の割合は最も多い。背景には、学生の自転車利用率の高さと、自転車のルールを遵守する意識の薄れがある。

 授業に遅刻しそうで急いでいた学生(同志社大・2年)は、細路地から出てきたバイクを避けきることができずに衝突した。人通りの少ない細路地だったので、全く注意していなかったという。バイクは一時停止しておらず、学生も右側を通行していた。

 行政も京都府警も、「事故を減らすために、マナーをきちんと守ってほしい」と呼びかける。「左側通行を順守する、歩行者の後ろでは押して歩くかゆっくり抜くなどを心掛ければ、事故は格段に減る」と京都府の担当者は話すが、実行できている利用者は少ない。「面倒なのかもしれないが、『怖い』という意識をもっと持ってほしい」と漏らす。

 京都府では2014年1月から10月までで1801件の自転車事故が起き、被害に遭った中では20歳代の若者と65歳以上の高齢者が多かった。また状況別では、昼間の交差点で出合い頭に起きた事故が最も多い。

 誰でも利用できる手軽な乗り物なだけに、自転車は自動車・原付バイクより利用者の幅があり、免許取得の制度もないため、マナーを教えにくいという。

 ルール周知のため、各組織はさまざまな取り組みを行っている。入学式などでの京都府警の啓発活動や通学路での指導のほか、大学生協でも自転車無料点検とともにマナー講習会を開催。また学生自身でハザードマップ作成を行った。京都府は「マナー向上の一歩として、ルールを遵守していつもの道を走ってみて」と提案。常に意識することでルールを覚え、マナーが体に染み付くようになるという。

 環境に負荷がかからない、幅広い年齢層が免許もいらず手軽に使えるなど、自転車の利点は魅力的。ただし、歩行者や他の車両と共生するためには、ルールを守って使う必要がある。自転車は被害者にも加害者にもなりうる立ち位置だ。

 「1回の不注意による事故で自分と相手の人生が大きく変わってしまうことを想像して、マナーを守ってほしい」。大学生協の担当者は注意を促す。

東京五輪 自転車都市構想関西に波及か

 東京五輪に向けて、自転車都市構想が進められている。大阪も五輪会場の候補に挙がる中、関西の自転車環境に影響はあるのだろうか。

 2020年の東京五輪に向けた街づくりの一環として、東京都では自転車を利用しやすい環境整備「自転車都市」化が構想されている。舛添要一東京都知事は昨年10月にロンドンを視察。2012年のロンドン五輪の交通需要対策を背景に発達した自転車交通網を参考に、今後東京で自転車専用レーンやシェアサイクルを拡充してゆくとのこと。

 この構想は東京だけに留まるものなのだろうか。国際オリンピック委員会は昨年11月にバスケットボールの予選大会の会場候補地に大阪を提案した。当の大阪の自転車事情をみると、昨年10月に橋下徹大阪市長が発表するところでは、2016年度を目標に、御堂筋の一部側道を自転車専用レーンに転用するという。すでに大阪でも自転車環境の改善の萌芽はみられるものの、東京五輪の影響で関西の自転車環境の改善に拍車がかかるかもしれない。

持続と教育 自転車環境の課題

 東京五輪に伴う自転車都市化の課題は何か。「東京五輪が閉会後、いかに持続的に自転車環境を維持してゆくかが問われる」と語るのは、自転車駐輪システム「EcoStation21」を運営する株式会社アーキエムズ常務取締役の大槻紘平氏。「行政からの補助金を基盤にしたビジネスモデルは破綻をきたす例もある。民間企業がどれだけ尽力できるか」と話す。

 また自転車の流行に伴う管理や危険の問題については「自転車ルールの教育が先決」だという。自転車の法的ルールを学ぶ環境不足を背景に、ルール・マナーを周知するイベントを開催。昨年12月から今年1月にかけて、京都市とともに自転車計画のパブリックコメントを募集するキャンペーンを実施した。「関心の無い層にどうやってアプローチするかがカギ」と大槻氏。BMXライダー田中光太郎氏や人気コミック『弱虫ペダル』(秋田書店)とのコラボレーションも行っている。

京女大 自転車CM大賞受賞

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 KBS京都と京都府警本部主催の第4回自転車交通安全CMコンテストで、京都女子大家政学部生活造形学科3年江口プレゼミ「ZUC」が、大学生・専門学校生テレビCM部門グランプリを受賞した。

 グランプリ作品『みんなで守ろう交通ルール』は、使用者がマナーを守ることでよい街づくりを促すもの。作品は一枚ずつ色鉛筆で描き、スキャンした画像をつなげている。7月決定のプレゼミで3チームに分かれ、夏季休暇に制作を開始。リーダーの加藤千晶さんは「見てくれる人が温かい気持ちで、自転車の安全を考えるきっかけになれば」と語る。

 コンテストは自転車の交通事故防止やマナーの向上が目的で、応募総数は89。同プレゼミの他チームも準グランプリと特別賞を受賞している。

取材を終えて

 自転車の流行に伴い、社会は姿を変えつつある。放置自転車が増えるとシェアサイクルが増え、事故が増えると自転車専用レーンが設けら
れる。しかし、これで解決だろうか。

 シェアサイクルの私物化が問題になりつつあり、専用レーン脇の歩道を自転車が依然として我が物顔で通行する。遵法精神無くして自転車問題の解決は無い。

 「ママチャリ」がれっきとした日本文化だと認識している人はどれだけいるだろう。最低限の機能を備えた安価な自転車は、実は欧米にはなかなか見当たらない。安価だからこそ「ビニール傘」よろしく使い捨ててしまうのは考えもの。便利すぎるものは、いつも使い手のマナーやモラルを問うている。

 自転車の流行に追いつきつつある社会状況に、乗り手の意識が追いついていない。三者の追いかけっこはまだまだ終わることはなさそうだ。