大学が職業訓練校へ G型L型大学
文部科学省が10月から開催した「高等教育機関についての有識者会議」で提出された冨山和彦委員の資料がネット上を騒がせた。
冨山氏は大学をGlobal大学(以下、G型大学)とLocal大学(以下、L型大学)に分け、G型大学は製造業やIT産業を、L型大学は物流、宿泊、外食、介護などの対面型サービス産業を扱うことを想定。そして、L型大学は「学問」よりも「実践力」を重視し、専修・専門学校も含む「職業訓練校」にするという内容だ。
文部科学省はどのような意図で提出資料を公表したのか。「あくまで有識者の一提案であり、本会議の出席者から提出された資料を当局で公表を控えたり内容の変更を求めたりはしていない」と回答した。内容の議論については、冨山氏が本会議に11月27日現在、出席したことがなく進んでいない。今年度の終わりまでには、冨山氏が出席して議論が行われる予定だ。
大学のG型・L型産業教育の分担が将来の職業の固定化につながると、危機感を抱く学生がいる。「学生に人生を選択させる気がないように感じる」と話すのは、中川直紀さん(阪大・4年)。「学生の可能性を上から決めつけている。個人が何をしたいかを考慮に入れていない」と反発した。
学生だけでなく教授側からの反発も強い。京都大の服部憲児准教授(教育学部・教育学研究科)は「教授側からの反対意見は絶対に起こる。強力な政策誘導がないと実現は難しいだろう」と指摘。「専門学校とは違う大学教育の意義の1つは、主体的・自律的・批判的に考える能力を身につけさせること。L型大学ではそれが失われるのではないか」と大学教育について国のより深い見識を求めた。
京大の有賀哲也教授(理学部・理学研究科)は「もう少し論旨が整理され、論拠が示されないと実現されないように思う」と実現性に疑問を持つ。「すでに専門学校などで行われている対面型サービス産業などの職業訓練と違い、(L型産業の)労働生産性がどのように向上するのか説明はされていない。ほぼ全ての大学で職業訓練を行って効果があるのかどうかについて、私には理解できない」と話した。田原尚樹さん(立命館大・1年)は「実学だけなら、大学に入ろうと思わず自分で勉強するだろう。学問と実践力がそろっているから行く意味があると思う」と話した。
まだ一委員の提案の段階とはいえ、実現すれば今の大学教育を根本から揺るがすことは間違いない。教養と多角的な思考を養う高等教育が職業訓練校になることは危険をはらむ。企業にとっての「現場」と学問にとっての「現場」は違うのだ。
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