スマートフォン(スマホ)が急速に普及し、多くの学生が日々スマホを使っている。しかし講義中にも使用するなど、スマホを手放せない学生の姿も。SNSやネットサーフィンがいつでもできる便利さの裏では、「依存」に陥る危険を自覚することが必要だ。

 UNN関西学生報道連盟では、大学生を対象にスマホの使用に関する調査を行った。アンケートに回答した259人のうち、97・3%がスマホを所有していた。一日の使用時間について「4時間以上」と答えた学生は39・0%、「2時間から3時間」は36・3%。7割を超える学生が一日に2時間以上スマホを使っている。

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 「スマホで何をするか」という質問に対し、ほとんどの学生がTwitterなどのSNS、無料通話アプリのLINE、ゲームやネットサーフィンなどをすると回答した。スマホを使用するのは「電車やバスなどの移動時間」と答える学生が多い一方で「講義中」という回答もみられた。

 講義中にスマホを使用したことがある学生は78・4%と8割近くに上る。使い方には「講義中に気になった単語を調べる」、「板書や講義のスライドを撮影する」など講義に関係するものも多かったが「暇つぶし」という回答も。理由として「講義に気が向かないから」、「講義が面白くないから」といった講義に後ろ向きな意見や「教員が注意しないから」といった意見も挙がった。中には「触っていないと落ち着かないから」といったコメントもみられた。

 スマホの電源を一日中オフにしても支障なく生活できるかという質問に対して「いいえ」、「どちらかといえばいいえ」と答えたのは52・9%で、スマホを手放せないと考える学生が多い。理由としては、「家族や友達、サークルやバイト先などと連絡を取れなくなることが不安」などが挙がった。

 便利さの反面、「たまに時間を無駄にすることがある」、「依存している気がする」といった意見も。連絡や情報収集の手段がスマホ中心になっていることに不安を抱える学生も多いようだ。

 講義中のスマホ使用について、教員の間では賛否が分かれる。関西学院大の打樋(うてび)啓史教授は講義中のスマホ使用を禁止している。「(スマホ使用者は)明らかに授業を聞いていない。私語をしているのと変わらないから」と講義中のスマホ使用に否定的だ。
 一方、大阪大の尾田欣也(きんや)准教授は板書の撮影を認めるなど、スマホの使用に賛成だ。「スマホは便利だから。スマホがない頃は必死に板書を写していた」と話す。

教員は賛否両論

 講義中のスマホ使用について、教員の間では賛否が分かれる。関西学院大の打樋(うてび)啓史教授は講義中のスマホ使用を禁止している。「(スマホ使用者は)明らかに授業を聞いていない。私語をしているのと変わらないから」と講義中のスマホ使用に否定的だ。
 一方、大阪大の尾田欣也(きんや)准教授は板書の撮影を認めるなど、スマホの使用に賛成だ。「スマホは便利だから。スマホがない頃は必死に板書を写していた」と話す。


「回答丸写し」 思考力低下に

 今回の調査で複数の教員が指摘したのは、スマホ使用による思考力の低下だ。関西大の日高水穂教授は「発問に対し、すぐスマホで調べて答えを丸写しする学生が増えたことが何より問題」とコメント。スマホに頼りきってしまい、自力で答えを導く姿勢が失われつつある。教員は現状を不安視する。

 講義中に分からない用語を調べるなど、学習に役立つスマホ。だが、課題の答えを調べることもできてしまう。スマホの使い道が適切か、考える必要があるだろう。

健全な生活 脅かす

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 現在、「スマホ依存」を精神疾患として診断する国際的な基準は存在しない。しかし、心理カウンセラーの西尾浩良さんは「『依存症』の定義によると『スマホ依存』とは、学生なら学業や運動、社会人なら仕事など、それぞれの本分よりスマホの使用を優先し、本人の健全な生活や成長が妨げられている状態」と話す。「スマホの使用時間を自分で制御できない」、「スマホを使えないときにイライラや不安を感じる」、「スマホの使用が今すべき勉強や仕事の障害になっている」などの自覚があればスマホ依存の疑いがあるという。

 スマホ依存に陥ると、スマホの使用に費やす時間が生活の大半を占め、学業や仕事の妨げになる。コミュニケーションはSNSの中で完結し、他者と直接関わる頻度が減る。結果として、引きこもりやコミュニケーション障害などにつながる恐れもあるという。不眠や視力の低下、頭痛、肩こり、不安やイライラを感じるなど、健康面にも影響を及ぼす。「これらの症状は自律神経のバランスを崩し、慢性的なストレスの原因にもなるので、うつ病などの精神疾患へ移行することも考えられる」と西尾さんは指摘する。

自制する意志 脱却の第一歩

 診断基準が確立していないため、スマホ依存の治療を行う医療機関はまだ少ないのが現状だ。個人でできる取り組みとして西尾さんは「スマホ使用時間のルールを決める」、「スマホの使用に過度な時間を費やすことの害を明確にする」、「スマホの使用に費やした時間を仕事や勉強、交友などに使っていたらと考えてみる」、「スマホ以外に楽しめる趣味を探す」、「スマホをすぐに使えない状況を作る」などを挙げる。

 あくまで本人の自制心によるため、本人の「依存から脱却しよう」という意志が必要となる。「やめようと思えばすぐにやめることができる」、「誰にも迷惑をかけていない」など治療への意欲が低いと、長期化しがちだという。

「つながり意識」 学業に悪影響か

 同志社女子大の中島純一教授は、スマホでのSNS使用がスマホ依存の原因だと考える。中島教授が平均年齢20・3歳の女性296人を対象に行った調査では、SNSに夢中になる理由の半数近くを「情報の新鮮さ」、「コミュニケーション」、「つながり意識」が占めたという。SNSを通していつでも他人とつながることができるため、つながっていないことへの不安が生じてしまう。他人とのつながりを意識するあまり、スマホを手放せなくなることが多いようだ。 

 スマホ依存が学生に与える影響として中島教授が強調するのは、学力の低下だ。スマホの使用を学業より優先すれば、成績が低下し、単位を落とす可能性は高い。「夜遅くまで使っていて朝に起きられなくなり、講義の遅刻や欠席が常習化する」とも指摘する。
 スマホのゲームも依存の一因だという。兵庫県立大の竹内和雄准教授によると、ゲームを通して多くの人とつながり、誰かに認められたいという思いから依存に陥るケースが増えている。竹内准教授は「ゲームでは互いに協力する場面が多くあり、自分が必要とされていると感じるのでは」と分析する。

自転車スマホ 事故原因に

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 大阪府警察の統計によると、今年府内で発生した携帯電話などの使用による自転車の交通事故は、10月末までで19件。道路交通法や同府では自転車の運転中、携帯電話などを持っての通話や画面の注視が禁止されている。

 スマホを操作しながらの自転車運転は危険な行為だ。片手運転になりバランスを崩しやすくなるだけでなく、操作に気を取られて周りが見えなくなる。集中力を欠くため、歩行者の飛び出しや車への反応が遅れ事故の原因になることも。事故を起こした場合は、被害者側に一生の傷を負わせる恐れもある。

 京都府の道路交通規則、兵庫県の道路交通法施行細則も、携帯電話などを操作しながらの運転を禁止している。違反した場合5万円以下の罰金を科せられる。

記者の目

 情報機器の技術進歩は目覚ましく、今ではスマホで何でもできると言っても過言ではない。しかし依存の危険も忘れてはならない。「スマホは非常に便利な道具。しかし、道具に依存して健全な学生生活が阻害されてしまっては本末転倒だ」と西尾さんは話す。

 アンケートの結果から見れば、学生の本分のはずの講義中でさえスマホが気になってしまう学生が多い。講義が退屈だと言う学生は多いが、講義への姿勢を決めるのは学生自身だ。

 自覚がないだけで、すでにスマホに依存している学生は多いのかもしれない。西尾さんは「スマホの機能を正しく理解し、危険性も認識した上で適切に使う『スマホ・リテラシー』を身に付け、後の世代に伝えていくことも今の時代に生まれた学生の役割では」と考える。果たしてわれわれ学生は「スマホ・リテラシー」を身に付けられているのだろうか。