総務省の調査によると、起業した学生は2007年の3000人から、12年は800人に減った。不況の影響とみられているが、安倍政権は成長戦略の一端として、積極的に起業を支援する姿勢を見せている。 一方で、学生のまま起業することへの疑問が残る。ビジネスに打って出るのであれば、学生のままではなく、退学して起業、という道もあるのではないか。

 「学生起業」というアンバランスな選択の意義を探った。

学生のメリット 勉強にも好影響

 不動産ビジネスを運営する経営学部2年のAさんは、「学生の本分は学業」と前置きしながら、学生起業のメリットを「セーフティネットがあるのが大きい。失敗しても学生という身分が残る」と話す。大学で勉強している経営学が実地で活かせ、「ビジネスと学業の相互に良い影響がある」。社会人としての経験がないため固定観念に縛られないこと、また学生を応援したいと考える社会人からの支援を取り付けやすいこともメリットとして挙げた。一方で学生だからと事業の継続性を疑問視され、「いざとなったらやめるのでは」と思われることもあるという。一長一短あるが、メリットのほうが大きいとの判断から学生のままビジネスを続けている。

 優勝者に最高1000万円の起業資金を出資するKBCC(学生ビジネスプランコンテスト)は、学生の起業を支援する目的を「起業できる環境の提供と、社会人や経営者、投資家とのつながりを学生に作ること」としている。2014年度の代表を務めた井上裕也さん(神戸大・2年)は「ビジネスプランは実行してこそ意味がある。プランが実行されることで社会に価値を与えられるような大会を目指している」。扶養する家族がいないなど、リスクを最小限に抑えられる学生だからこそ起業できるのでは、と続けた。

大学も積極支援 求められる起業

 大学教育の中でも、起業家を育成するためのカリキュラムやコースを用意するところが増えている。大和総研の「大学・大学院における起業家教育実態調査」によると、全国の大学で起業家教育の講座を持つ大学は247校。立命館大の産学協同アントレプレナー(起業家)教育プログラムや、関西学院大経営戦略研究科の経営戦略専攻・企業経営戦略コースなど、関西圏の大学も多い。大学としても、起業家輩出のための取り組みを重ねている。 また、経済産業省主催のビジネスプランコンテストや東京大学アントレプレナー道場など、官民ともに学生起業を積極的に支援する場も整ってきている。

 
 一方懸念の声も 起業自体は普通

 学生を取り巻く環境がこぞって起業を支援する中、懸念の声もある。 経済学部に所属する教員は、「起業がゴールになってしまう学生が多いのが問題」と指摘する。学生の内にリスクを取って行動したことは評価できるが、「学生だから」評価されるだけで起業自体がすごいことではない、と厳しい立場をとる。「起業を考える前に、まずは大学でしっかり勉強してほしい」とも漏らした。

 Aさんは「『起業ごっこ』には意味がない。学生だって社会に価値を生み出しみんなが楽しめるビジネスをしないと」と話す。起業を目指すのであれば、「起業」という行為に目を奪われず、学生という立場に関係なくビジネスの本質を理解して行動する必要がある。本気のビジネスにとって、「学生起業家」の肩書きに価値はないからだ。