大阪大には「素数さん」と呼ばれる人物が存在する。素数の並べられたTシャツを愛用し、しばしば話題になることも。阪大の学祭であるまちかね祭で行われた、宿酔バンド解散コンサートでもキーボードとして登場した。その正体は、整数論を専攻している関慎一朗さん(阪大理学研究科・博士)だ。

 今でこそ「この世で最も美しい現象が素数にある」と考えている関さんだが、元々は素数にそれほど興味はなかったという。転機は高校時代に、日本を代表する数学の権威である加藤和也教授の存在を知り、京都大に入学したことだった。「一般的に数学は論理的、ともすれば冷徹というイメージが持たれているが、加藤先生の講義を聞いていると、数学が人間味を帯びているように思える」と関さんは話す。「素数の気持ちになって」と教授に言われたこともあるそうだ。教授との出会いで、数学の印象が180度変化し、整数論に進むきっかけにもなったという。

 関さんは素数大富豪というゲームの発案者でもある。きっかけは、その頃熱中していた大富豪と素数を混ぜ合わせたら面白くならないかと思いついたこと。素数大富豪という名前が先にでき、ゲームの基本ルールは15分で組み上げたという。気がかりはルールに漏れがないか、ゲームとして面白いかだったが、問題なかった。それどころか、「素数大富豪は大富豪とは完全に違った面白さを持つ、オリジナルのゲームとなっていた」と関さんは語る。

 素数大富豪は、大富豪と同じくカードを弱い順に出していくというルールが基本だが、異なる点がいくつかある。一番重要なポイントが、カードは素数しか出せず、最小の素数である2から始めることができるということだ。例えば19という素数は、1と9のカードを組み合わせて場に出すことができる。「一見難しそうだが、実は大富豪の欠点を補っていて非常に面白い」と関さんは話す。例えば、普通の大富豪はカードに強弱関係があるが、素数大富豪にはない。どんな手持ちでも場をひっくり返すチャンスがあることが素数大富豪の面白みでもある、と関さんは言う。

 関さんは、素数大富豪に対して「素数という単純な概念を使って作れたことで、一般の人にも親しんでもらえるゲームになった」とうれしげな表情を見せた。実際、素数大富豪は数学合宿などでも行われ、友人や理系学生、高校生までにも広がりを見せている。「今はまだ一部でしか行われていない状況だが、将来的には小学生や中学生にも広まってほしい」と関さんは話す。
 関さんは今、博士号取得に向けて研究に励んでいる。「博士号を取れるかはまだわからないが、将来は整数論の分野で、一端を担っていけたらと思っている」と語った。

※ゲームの詳しいルールは、以下のURLから確認できます。
  https://t.co/kSY0Ph2vQT

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