大阪大と言えば、理系・真面目・単位が厳しいといったイメージが強いが、阪大の大学祭「まちかね祭」と言えば何だろう。学祭の「顔」と呼べるほど、人気のあるものとは。ミスコンやアカペラは華やかだが、阪大のオリジナルとはいえない。アカデミックな研究発表も、ひっそりと影を潜めている。はたして何が阪大の顔と呼べるのか。
 
 今年のまちかね祭が近づくと、Twitterがにわかに活気づいた。口々につぶやかれるのは「留年王」という不穏な言葉。阪大生の闇にも思えるこの存在は、いったい何者なのか。

 その正体は、コスプレアニソンバンド「留年王誕生!―集大成ヴァージョン―」。阪大7年目のボーカル芳中宗一郎さん(大阪大・4年)率いる7人組バンドだ。11月2日にまちかね祭のステージ奏に帰ってきた。阪大での単独ライブは1年ぶり3回目。

 留年王は、自身のキャリア史上最多のおよそ600人が殺到するステージを意にも介さない。まちかね祭出演3年目を迎えた彼らは、マイペースに観客のボルテージを意のままにしてしまう。十八番の「勇者王誕生!」(勇者王ガオガイガー)や子供心をくすぐる「おジャ魔女カーニバル!!」(おジャ魔女どれみ)で白熱。アンコールは鉄板の「Butter-Fly」(デジモンアドベンチャー)で惜しまれながら幕を閉じた。

 会場はあいにくの曇天だったが、「(雨の予報だったのに)これだけ人が集まるとは」と芳中さん。ライブ中には、留年王オリジナルのクリアファイルが超満員の客席にそっと投げ込まれた。「見に来てよかった」と受け取った観客も大喜びだ。

 まちかね祭の顔、阪大ならではのコンテンツを考えると、留年王は看過できない人気の持ち主。バンドを率いる芳中さんも、就活が成功してしまったため今年度で卒業予定。「来年は後輩が『再履王』や『除籍王』をやってくれたら」。留年王解散をステージで報告した。喜びとも悲しみともつかない反応であふれた観客に、不安がよぎった。「来年度のまちかね祭に、顔はあるのだろうか」。

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