VOL.225 攻略「梅田ダンジョン」ー避難ミッションをクリアせよー
「梅田ダンジョン」とも揶揄されるほど複雑な大阪梅田地下街。大阪市北区にあるこの地下街の詳細な構造を示した図面が、今年3月に発表された。各地下街が個別に管理していた設計データを統合し、各地下街の高低差や海抜基準との関係を明らかにした。大阪市でも浸水対策が進んでいる。
大阪梅田地下街は、地下街管理会社や鉄道会社、工事業者など、個別に管理され、全体の構造を詳細に把握できる図面はなかった。しかし大阪市立大大学院の谷口与史也教授(建築構造学)と当時大学院生だった合田祥子さん(都 市系建築学専攻)ら5人の研究グループが詳細な構造を解明。地下街には最大約7メートルの高低差があることを初めて明らかにした。そして大阪湾の潮位との高低差(O. P.)が、JR北新地駅周辺 が最も深くマイナス8・2メートルで、1番浅いJR大 阪駅周辺ではマイナス1・5メートルだったことも判明し た。地下街のどこから浸水していくかを計算する手がかりになる。大阪市は今年3月、大阪府、市内の地下街の管理 会社、鉄道会社、ビル会社などが参加して浸水からの避難計画を立てる、「大阪市地下空間浸水対策協議会」を設置した。
一方、谷口教授は同大の瀧澤重志准教授(建築計画計算機科学)と共同で、図面を使った避難シュミレーションを進めている。南海トラフ巨大地震で津波が発生した とき、大阪梅田地下街までの到達予想時間は120分。地下街から避難にかかる時間を予測し、時間短縮の対策を練っている。現在のシュミレーションでは、避難開始から120分で地下街からの避難が完了する計算だ。しかし、この予測は避難指示が出てから 客がすぐ避難を始め、地下街から接続するビルに移動するまでの時間を計算している。他にも、津波がくると分かってから避難指示が出るまでの時間、人々が地下街から地上に脱出するまでの時間、人々が地上から安全な高さまで移動する時間をシュミレーションに入れなければならない。二次災害による避難の遅れも考慮する必要があるという。火災や建物の崩落、淀川の氾濫が危惧される。動きの遅い避難者がいたり、階段で将棋倒しが起こる可能性もある。さらに、地下の状況だけでなく、地上にいる人々の避難やビルの中に避難するスペースが確保できるかについても計算に入れなければならない。「避難できなかったとき『考えていなかった』では済まない」と谷口教授は注意を促す。
地下街は1カ所でもどこからか水が入ったら、接続する全域が浸水する。しかし、地下街での浸水や津波に対する人々の危機意識は低い。地下街の管理会社で協議会に参加しているのは5割強。「最終的には各店舗の責任者まで、すべての関係者に参加してもらい、実地で避難訓練を行なうことが理想」と谷口教授は話す。
防災対策は大阪梅田地下街の大きな問題の1つ。もし突然梅田で浸水警報を聞いたとき、あなたは1人で避難できるだろうか。 (聞き手=田中香子)
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