「アイスバケツチャレンジ」というチャリティー運動が、日本を含む世界中で盛り上がりを見せている。頭から氷水をかぶる、もしくは難病指定されている筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis、以下ALS)の支援団体に1万円を寄付し、次に実践する人を指名する企画だ。「病気を知るきっかけになった」、「パフォーマンス化している」など賛否が分かれている。

 アメリカから始まったアイスバケツチャレンジは、ALS患者を支援する人々により拡散され、世界中の多くの人に関心を寄せられている。FacebookやTwitterなどのSNSで水をかぶった動画が投稿され、日本でも広まった。ALSは1974年に日本で特定疾患として認定された指定難病だ。筋肉を動かすなど運動をつかさどる神経細胞(運動ニューロン)のみが障害をうけ、脳からの「手足を動かせ」といった命令が伝わらなくなる。手足・喉・舌の筋肉や呼吸に必要な筋肉が次第に痩せ衰え、身の回りのことが自分でできなくなる一方で、意識や五感は最後まで正常だという。病気の起こる原因が不明なため悪化を止める治療が開発されておらず、患者は進行を遅らせる薬、もしくは対症療法として人工呼吸器の装着や流動食で対処することになる。発症は65歳以上の高齢者が多いが、中には20代で発症する人もいる。日本では、一般社団法人日本ALS協会を中心に、情報発信や患者家族支援、治療薬の研究に関する援助、寄付の募集を行っている。
 アイスバケツチャレンジが広まるにつれ、ALSの認知度も上がった。日本ALS協会本部事務局長の金澤公明さんは、8月半ばから増加した寄付への問い合わせに驚いたという。「肯定的な意見も否定的な意見もどちらもあった。しかし、新しいことがあればどちらの意見もあるのは当然。病気を知ってもらえただけでもありがたい」と話す。寄付は ALSの原因究明や治療研究、患者家族への支援活動などに利用する予定だ。2102年8月に、京都大iPS細胞研究所の井上治久教授率いる研究チームが病の原因の一端を解明。世界で初めて治療薬開発への第一歩を踏み出した。
賛否両論のあるアイスバケツチャレンジ。有名人の中には指名を断り、自分の意思でチャリティーに参加しようとする人も現れるなど事態は収束しつつある。また、金澤さんは「ALSの他にも(治療が)難しい病気はたくさんある」と言う。ALSだけでなく他にも多くの病気や、病気以外にも難民や自然災害に関するボランティアやチャリティー活動がある。何のために行動を起こすのか。他人に流されるのではなく、自身で調べ、納得した上で活動に参加すべきだ。

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 「難病」とは、医学的に明確に定義された病気の名称ではなく、いわゆる「不治の病」に対して用いられてきた言葉だ。医療水準や社会事情によって意義・定義は変化する。有効な治療法が見つかっていなかった時代、日本では赤痢やコレラ、結核などの感染症が「不治の病」とされた。現在では公衆衛生の向上、医学の進歩および保健・医療間の充実に伴い、「不治の病」ではなくなったものもある。しかし、今なお治療法が確立されず多くの命が失われている病気もある。国が「特定疾患」に認定すると、治療法の開発などに向け積極的に病気が研究されるようになる。現在56疾患が認定されている。厚生労働省の定めた難病医療法に基づき、新たに来年1月から先行して医療費助成の対象となる110疾患が8月に決まった。最終的におよそ300疾患が対象となる予定だ。

vol.218