古部健太。その名を、彼の高校時代に知る者はごくわずかだった。
 
 「最初はサークルでサッカーをやろうと思ってました」。地元の高校から一般推薦で立命に進学。当時、国体選抜経験すらない古部にとって、強豪の立命サッカー部は「レベルが違う」存在だった。それでも入部を決めたのは、恩師の後押しと家族の理解があったから。「どこまでやれるか分からんけど、やるなら本気でやってみよう」。そして彼は、シンデレラストーリーをつむぎ始めた。
 
 「やばい、上手すぎる」。新入部員だけで戦ったミニゲーム。スポーツ推薦の部員でなくとも、古部より数段上のレベルの選手ばかりだった。けれど、そのレベルの差にひるむことなく、練習に打ち込んだ。「サッカーが面白い」、ただそれだけの気持ちが、古部を本気にさせていた。
 
 50メートル5秒9の俊足。守備をいとわない豊富な運動量。才能は2年になって開花する。平成17年度春季リーグ第8節で初出場を果たすと、第9節からスタメンを勝ち取った。3年次には総理大臣杯を制し、全国制覇。ただ1人の学生として、9月にはU-21代表候補にも選ばれた。「(立命が2部に降格した)4年のときはしんどかった。でも春季で1部に復帰できて良かったかな」。立命の1部復帰を見届けた古部は、Jに戦いの場を移す。

 「彼のスピードを一番生かせるポジションを今、探している。運動量があるし、何事にも一生懸命やる選手だ」。横浜F・マリノスの桑原監督は目を細めて古部を評する。

 ここ数年タイトルに恵まれず、覇権奪回を目指すF・マリノス。一昨年、野洲高校で全国を制した乾貴士(19)を筆頭に、有望な若手が多いチームだ。今年1月から本格的にチームの練習に参加している古部だが、やはりプロと大学ではレベルが違うと話す。「年齢が下の子でも、みんなめっちゃ上手いんですよ。基礎的なとこから僕はやっていかないとだめですね。毎日が勉強です」。

 一度は入部をためらった大学サッカー。愚直に練習に励み、スタメン、全国制覇、そしてプロへの切符を掴んだ。そして今、大学よりもう一つレベルの高いJリーグに古部は挑む。際立った技術はないが、スピードと運動量でここまで這い上がってきた。「謙虚さを失わず、ひたむきにプレーしていきたい」。シンデレラストーリーを、ここで終わらせるわけにはいかない。

●古部健太(立命館大学-横浜F・マリノス)
1985年11月30日生まれ、兵庫県出身のMF。平成17年度関西学生サッカー秋季リーグ優勝。平成18年度総理大臣杯全日本サッカートーナメント優勝。U-21日本代表候補。カタール国際ユーストーナメントU-22日本選抜。平成19年ユニバーシアード日本代表、3試合出場。

○来季からリーグ1部に復帰する立命サッカー部に対して。

「2部から上がってきたチームは勝つっていうジンクスがあるみたいなんで、その流れに乗って欲しい。1日1日を大切に練習して下さい」

▽今年の「関西学生サッカーJ内定選手特集」はこの第5回をもって終了します。この特集は、斉藤徹也、西村彩、西脇あずさ、深江友樹が担当しました。