ラスト5分に、4年間を賭けた。「完璧なプレーができた」。稲田は笑って大学サッカーを振り返った。

 小学校の休み時間が、稲田のサッカーの原点だ。本格的にサッカーを始めたのは中学に入ってからのこと。体格の良さからGKに指名された稲田は、地元中学のクラブでめきめきと実力をつけ、中2の夏にはナショナルトレセンにも選ばれた。そして9月、たまたま稲田のプレーを見ていた当時セレッソユース監督の藤原義三(現大院大監督)に誘われ、セレッソU-15に加入。「笑われるくらいどうしようもない下手くそで、それが悔しくて練習した」。将来性を見込まれた稲田はU-18にも昇格し、高3時には主力として第11回Jユースカップでベスト4に進出した。
 
 セレッソトップチームには上がれなかったが、「厳しい環境で試合に出られないより、大学で試合経験を積もうと思った」と考え、最も熱心に誘ってくれた大院大に進学。当時では珍しいGKコーチが居たことも魅力だったという。稲田が最終学年に進級し、キャプテンに指名された平成19年度。残留争いの常連だった大院大のスタッフが一新された。藤原新監督の下で、「チームワークと運動量で勝つサッカー」を目指した新生大院大。春季リーグは8位だったが、夏休みに意思統一を図り、練習量を増やすと、迎えた秋季リーグだ。「点を取れるようになったのが大きかった」。チームプレーと運動量で相手を圧倒し、無敗でリーグ初優勝を遂げた。平成19年度関西学生サッカーリーグ、ベストキャプテン賞に輝いた稲田だが、その胸中は複雑だったという。秋季リーグでは第8節まで出場時間ゼロ。「試合に出れなくても腐らず、外からチームを見ることで、キャプテンとしての役目を果たそうと思った」。

 裏方に徹した主将に与えられた時間は5分。秋季リーグ最終節、5-0で大量リードしていた桃山学大戦だ。後半85分から交代出場。キャプテンとしての役割、プレイヤーとしてのプライド、様々な思いを胸に、大学サッカー最後のプレーを終えた。

 「大学サッカーでは、組織をいかにまとめるかも求められる。目標の違う色んなやつがサッカーをやってて、その中で最後に優勝出来て嬉しかった」。大院大の初タイトルを置き土産に、稲田は熊本へサッカーの場を移す。ロアッソ熊本は来年度からJリーグに新加盟。ロアッソと共に、新たな歴史を切り開く。

 すでに熊本での練習に参加している稲田。プロとの練習を通しても、「ハイボール(高く上がったボール)への対応は通用すると思う」と話す。「サッカーを知らない人にも、スポーツの面白さを伝えたい」。GKとして試合に出れるのは1人だけ。それでも、競争を乗り越え、レギュラーの座を掴んでみせる。

○稲田康志(大阪学院大学-ロアッソ熊本)
1985年6月19日生まれ、大阪府出身のGK。平成19年度関西学生リーグ優勝。平成19年度関西学生リーグベストキャプテン。U-17日本代表。

●大院大サッカー部の後輩に対して
「これからは、優勝したことでマークもきつくなると思う。これからもチームワークを生かしたサッカーで優勝を目指して欲しい」。